中国新聞

■ 国連軍縮大阪会議を振り返って ■■■
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2003ヒロシマ祈りの日

ヒロシマ胎動

2003/08/25
解説  ヒロシマの蓄積生かそう

 十五回という節目を迎えた国連軍縮会議の焦点は、イラク戦争やテロ、北朝鮮の核開発問題を踏まえての議論が中心になるはずだった。が、終わってみれば、初めて設けた「軍縮教育セミナー」で多くの参加者が指摘したように、「暴力の文化から平和の文化へ」という意識改革を進めるための教育の重要性を再確認したことであった。

 確かに三つの全体会議では、政府関係者や学者らから、テロリズムの脅威と大量破壊兵器の拡散、国際原子力機関(IAEA)による査察強化など、現在の安全保障問題にかかわる詳細な分析リポートが二十本余りも提出され、多くの議論が費やされた。

 北朝鮮の核保有、米国の貫通型小型核の開発や核実験再開への動き、大量破壊兵器をめぐるジュネーブ軍縮会議の長年にわたる機能停止…。参加者にとって、核拡散防止条約(NPT)が定める既存の不拡散体制が、一段と悪化しているとの認識は一致したものだった。

 北朝鮮の核開発への批判は、そのまま国連の役割や国際法無視の米国の一国行動主義への批判となった。多くの犠牲者を出した会議開催中の駐イラク国連本部事務所への爆弾テロ事件は、軍事力だけではテロはなくならないことを、参加者らにあらためて想起させた。

 核軍縮が後退する状況下で何ができるのか。それには、やはり、政府レベルだけでなく、非政府組織(NGO)など現在の状況に危機感を抱く世界の市民の行動や世論が欠かせない。

 昨年から国連が提唱し始めた「軍縮・不拡散教育」は、その意味で時宜を得たものだった。今年七月に国連事務次長(軍縮担当)に就任した阿部信泰氏は、主催者あいさつで言った。「核戦争の恐ろしさを知らない新しい世代が大人になろうとするとき、軍縮や不拡散の問題について教育する必要が、今日ほど大きくなったときはない」と。

 被爆地の広島や長崎ですら、若い世代における体験の風化が進む中で、外務省役人として長年軍縮問題に取り組んできた阿部氏の言葉を重く受け止めたい。

 大阪市内の小中高教諭約五十人が加わった軍縮セミナーに耳を傾けた海外の参加者たちは、ヒロシマ・ナガサキだけでなく、第二次大戦時の日本の被害と加害の歴史を教えたりしている教諭らの取り組みに感銘を受けていた。

 核兵器や戦争のない世界の実現は、遠回りのように見えても「核兵器などの軍事力が自分を守ってくれる」といった人びとの意識を変えていくしかない。ヒロシマが蓄積してきたさまざまな平和教育の実績を、国連をはじめ国際社会に積極的に生かしていくべきときである。
(特別編集委員・田城明)