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核兵器廃絶へ市民と都市 行動の時 '06/8/7

 ▽被爆61年式典 広島市長が平和宣言

 「原爆の日」の六日、広島市は未明から、鎮魂と祈りに包まれた。中区の平和記念公園では、六十一年前の原爆投下時刻と同じ午前八時十五分、原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)の参列者四万五千人(市発表)が黙とう、犠牲者の冥福を祈りつつ、子から孫へとつないでいく平和の重みをかみしめた。秋葉忠利市長は平和宣言で、核兵器廃絶が実現できなかった反省を踏まえ、世界の市民と都市に目覚め、行動するよう呼び掛けた。(宮崎智三)

 式典は、早朝からの強い日差しが増す中で始まった。秋葉市長と遺族代表が、原爆死没者名簿を原爆慰霊碑に納めた。この一年間に亡くなったり、死亡が確認された被爆者は五千三百五十人。名簿登載者の総数は二十四万七千七百八十七人になった。市は、名前の分からない多くの犠牲者を追悼するため、今年初めて「氏名不詳者多数」と記した一冊も奉納し、名簿は四冊増えて、八十九冊になった。

 平和宣言で、秋葉市長は「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に反する」との国際司法裁判所(ICJ)が十年前に出した勧告的意見に言及。核軍縮に向けた「誠実な交渉義務」を果たすよう核保有国に求めるキャンペーンを新たに広げていく考えを打ち上げた。

 政府には、世界に誇るべき平和憲法を守り、核兵器廃絶に向けた誠実な交渉義務を果たすよう核保有国に迫る世界的運動の展開を要請。「黒い雨」降雨地域の住民や在外被爆者をはじめ、老いを重ねる被爆者の実態に即した人間本位の援護策充実も求めた。

 争いではなく、対話を求めるヒロシマの思いは世代を超えて広がっている。こども代表の南観音小六年の新谷望君(12)=中区=と、楽々園小六年のスミス・アンジェリアさん(12)=佐伯区=の二人が「平和への誓い」を読み上げた。世界の国や人々とのかけ橋になり、平和の扉を開くため歩み続けることを誓った。

 小泉純一郎首相は、あいさつで憲法の平和条項順守と非核三原則を堅持する考えを示した上で、核兵器廃絶と恒久平和の実現に向け、国際社会の先頭に立ち続けることをあらためて誓った。

 国連のアナン事務総長は「核兵器のない世界という目標は遠くに見えても夢ではありません」とのメッセージを寄せた。

 被爆六十年がすぎても核拡散に歯止めがかからない国際情勢に危機感を募らせる市は、核兵器廃絶を一層強く発信するため、核保有国など百四十カ国に首脳らの参列を要請。過去最多だった昨年の倍近い三十五カ国の駐日大使らが参列した。ただ、核保有国はロシアの一カ国だけだった。

 参列者は、被爆六十年の節目の昨年より一万人減った。式典の時間も昨年は要人あいさつのため二十分間延ばしたが、今年は例年通りの四十五分にした。

         ●平和宣言骨子●
■人類は今、すべての国が奴隷か、自由かの岐路に立たされている
■被爆者たちが「ほかの誰にもこんな思いをさせてはならない」と訴えてきた声は、心ある世界の市民に広がり、力強い大合唱になりつつある
■「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に反する」との勧告的意見で国際司法裁判所が述べた「核軍縮交渉を誠実に行い、完了させる義務」を核保有国が率先して果たしていれば、核兵器は廃絶されていたはずだ
■核軍縮に向けた「誠実な交渉義務」を果たすよう求めるキャンペーンを平和市長会議と展開。核保有国に対して「都市を攻撃目標にするなプロジェクト」にも取り組む
■核兵器から解放させる責任は私たち世界の市民と都市にある。固い意志と情熱を持って目覚め起き上がる時が来た
■日本政府には平和憲法を守り、高齢化した被爆者の実態に即した温かい援護策充実を求める
■すべての原爆犠牲者に哀悼の誠をささげ、人類の未来の安寧を祈る

【写真説明】線香の香りに包まれる原爆慰霊碑前。鎮魂と平和への祈りが続いた=6日午前4時55分(撮影・安部慶彦)


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