▽家族写真の悲しみ、絵本に 広島の綿岡さんモデル
原爆で両親と妹の五人を失った女性の家族写真に込める思いが、絵本として出版される。広島市中区十日市町に住む綿岡智津子さん(77)の被爆体験と、その記憶を受け止める長女親子の三世代の物語。広島を拠点に活動するエッセイスト天野夏美さん(44)がまとめ、二十九日、綿岡さん宅を訪れて完成を報告した。
「いわたくんちのおばあちゃん」と題した絵本は、原爆ドーム近くの小学校に通う孫の家族と写真に写りたがらない祖母が胸に抱く理由を、小学校の下級生が明かすストーリーで描いている。
綿岡さんは、十日市町の自宅で両親ら家族六人そろって写真を撮った数日後に学徒動員先の工場で被爆し、独りとなった。今も近所に住む長女の岩田美穂さん(47)と孫で中学一年となった雅之さん(12)らと写真に収まるのを好まない。家族を失うのではないかという不安がよぎるためだ。
天野さんは、友人でもある岩田さんから「八月六日」前に撮られた家族写真をめぐる被爆の証言を聞き、「おばあちゃんの思いを通じて、家族への愛や未来への希望を伝えたい」と願い出た。
絵本を見ながら綿岡さんは「夢のよう。うれしい」と表情を和ませた。岩田さんは「原爆を身近に受け止め、平和について家族で話し合ってほしい」と求め、昨年の平和記念式典で「平和への誓い」を読みあげた雅之さんは「おばあちゃんの気持ちを知ってもらえる」と言葉を弾ませた。
「ぼく、おとなになっても戦争せんよ。ほんとよ」と結ぶ絵本は、B5判六十四ページで千五百七十五円。八月二日に全国の書店で発売される。(岡田浩平)
【写真説明】天野さん(左端)から完成した絵本の説明を聞く綿岡さん(左から3人目)と娘の岩田さん(同2人目)、孫の雅之さん。「家族の記憶が、かたちになってうれしい」
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