| 広島のどこかで
 
   その2  
 
 
    太田川が放水路と本川とにわかれるあたりに大芝水門があります。そのすこし上流に、ながれついた土砂がつもってできた小さな島があります。その島の南がわにヌートリアのふうふがすんでいました。
  秋の風がふきはじめると、この島にたくさんのアオサギがもどってきて、はんの木の枝にとまっては、ギャーギャーとわめきながらすづくりをはじめます。まよなかまでさわがしいので、ヌートリアのふうふはすっかりねぶそくになってしまいました。
  「ねえ、どこかしずかなところへひっこしましょうよ」
  おくさんのリアがいうと、だんなさんのヌートもうなずきました。
  ある月あかりのばん、リアとヌートは島をぬけだしました。
  ヌートは、月あかりにてらされて、音もなく川下にむかっておよぎはじめました。リアもそのあとにつづきます。
  京橋川をくだって、木々がしげっているそばをとおったときでした。
  「なつかしい水のにおい」
  リアがさけびました。
  そこは、小さな取水口になっていて、リアたちがくぐれるほどのひろさがありました。
  「行ってみよう」
  ヌートが先になってすすみます。どかんの中はどこまでもつづいていました。
  「どこへいくのでしょうね」
  三十分もおよいだころ、きゅうに水のながれがはやくなって、あっというまに外へほうりだされました。広島城が見えました。そこはおほりでした。
  「ひろいなあ」
  さかなもたくさんいて、水草もじゅうぶんにあります。
  「いいところだねえ」
  ここが、リアとヌートのついのすみかになりました。つきよのばん、なかよくおよいでいるすがたを、いまでもときどき見かけます。
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