|   
 
   その3 なつかし屋 
 
 
    そのお店は『なつかし屋』といった。オープンしたてとは思えない、くらいかんじのお店だ。もっとも、どんぐり横丁じたいがかなり古びているので、それもしかたがないことかもしれない。ときどきまんじゅうを買いにくるコウヤいがいに、このお店のことをしっている者は、いないにちがいない。
  ガラリとひき戸をあける。プーンと、カビのようなほこりっぽいにおいが、鼻をつく。
  「いらっしゃーい」
  今にも消えてしまいそうなかぼそいこえが、せまいお店の中にひびいた。
  お店の壁がわにはたながあって、たなには手のひらにのるほどの、色とりどりの小さなものが、たくさんならべられていた。
  「なあ、おもしろいだろ」
  コウヤがとくいげに、肩をゆする。
  「ほんとうだあ。すごいなあ」
  マサルの目は、たなの上のものにくぎづけだ。
  まるいカードとしかくいカードが、数枚はいったふくろがあった。『めんこ』と書いてある。絵がむかしっぽくって、カッコイ
イ。
  「あの、これいくらですか?」
  「ああ、それは三十五円」
  かぼそいこえで、おばあちゃんが答えた。やすい! よし。これ、買ってかえろう。
  それから、はずすのがとってもむずかしい、ハリガネが二本からんだような『ちえのわ』と、『ベーゴマ』を買った。しめて百六十円なり。こんなにやすくっていいのかな、とふあんに思って、「あの、ねだんほんとうに、あってますか?
  こんなにやすくって、だいじょうぶですか?」ときいたら、「むかしのものを売っとるだけじゃけぇ。フリーマーケットみたいなもんじゃけぇ、ええんよ」
  おばあちゃんが答えた。
  それにしても、おばあちゃんの口から、フリーマーケットということばが出てきたのには、おどろいた。
 |