第3部 ルポ・自衛隊は今 | |
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4.国際化教育 |
広島県安芸郡江田島町の海上自衛隊幹部候補生学校。三等海尉以 上の幹部を目指す候補生が学ぶ。五月末、防衛大学校を今春卒業し たばかりの約三十人が出席する英語のクラスをのぞいた。教官は、 米国の海軍士官学校から派遣された駐在士官のニール・ウィルマン 大尉。候補生たちを三チームに分け、お互いに表現方法や語いの誤 りを指摘し合うゲーム形式で、会話を教えていた。
予想していた「幹部教育」という堅いイメージはなく、教室には 明るい笑い声が絶えなかった。 英語練習室を増設 海自隊の国際化を背景に、同校は英語教育に力を入れている。米 軍士官による英語の授業は、三十年近い伝統だが、実践的な会話能 力を高めるため、かつて一室だけだったLL教室(語学練習室)は 三室に増えた。さらに本年度、改修も計画する。 「昨年、大地震救援のためトルコへ艦船を派遣したが、こうした 場合に急に英語のスペシャリストは乗せられない。海外の大使館勤 務など、専門的な英語が必要な自衛官以外にも素養として英会話の 重要性は増している」。尾崎通夫学校長は、そう説明する。 海自隊には、もともと同校を出た年に練習艦隊で世界を回る「遠 洋航海」など、国際化教育の場はあった。しかし、一九九一年のペ ルシャ湾掃海部隊以降、国連平和維持活動(PKO)や災害派遣な ど、海外で活躍する機会は急増した。 「視野が広がった」 それに応じた人材育成のため、同校のカリキュラムも九五年以 降、見直された。防衛大や一般大学などを出た候補生が幹部になる 前の一年間の基礎教育で、航海、通信など伝統的な「術科教育」を 思い切って減らし、「国際化」に振り向けたのだ。 四月八日、東京・晴海ふ頭。遠洋航海に出る準備をする練習艦 「かしま」(四、〇五〇トン)の士官室で尺田隆一・三尉=広島県安 芸郡熊野町出身=は「幹部候補生学校での経験は、国際的な視野を 広げてくれた」と振り返った。二十四歳。三月、同校を出て幹部に なった二百四十六人の一人である。 「国際法の授業や、安全保障についてのセミナーが特に勉強にな った」と言う。いずれも幹部候補生学校の新カリキュラムの柱とし て新たに導入された内容だ。 中でも、九月から十二月にかけて行われるセミナーは候補生に人 気が高い。座学を離れ、小グループに分かれて調べたテーマを自由 に議論する。現在の国際情勢分析のほか、戦術面では中国の『孫子 の兵法』も取り上げた、という。 尺田三尉は中学卒業後に入隊。呉地方総監部などに勤務しながら こつこつ勉強し、同校に内部合格した。海自隊の国際的な活動にあ こがれていただけに、実務一本の勤務と違った授業は、新鮮だっ た。 国防任務 伝統守る 同校の改革はカリキュラムにとどまらない。九七年には、新しい 学生館(寄宿舎)の完成で、前身の旧海軍兵学校時代から続いた三 十人部屋から、四人部屋に変わった。ただ、分刻みの日課、カッタ ー訓練、十五キロ遠泳などの「伝統」は続く。尾崎学校長は言う。 「国際貢献などを自衛隊の志望動機とする人は増えていると思う。 だが、国防という任務と幹部に求められる基本は変わらない」 |