中国新聞

タイトル 第3部 ルポ・自衛隊は今 
 
 4.国際化教育

幹部養成に改革の波
 実践型の授業が人気

 広島県安芸郡江田島町の海上自衛隊幹部候補生学校。三等海尉以 上の幹部を目指す候補生が学ぶ。五月末、防衛大学校を今春卒業し たばかりの約三十人が出席する英語のクラスをのぞいた。教官は、 米国の海軍士官学校から派遣された駐在士官のニール・ウィルマン 大尉。候補生たちを三チームに分け、お互いに表現方法や語いの誤 りを指摘し合うゲーム形式で、会話を教えていた。

米軍大尉(右)から、英語の指導を受ける幹部候補生たち (5月29日、広島県江田島町の海上自衛体幹部候補生学校)

 予想していた「幹部教育」という堅いイメージはなく、教室には 明るい笑い声が絶えなかった。

 英語練習室を増設

 海自隊の国際化を背景に、同校は英語教育に力を入れている。米 軍士官による英語の授業は、三十年近い伝統だが、実践的な会話能 力を高めるため、かつて一室だけだったLL教室(語学練習室)は 三室に増えた。さらに本年度、改修も計画する。

 「昨年、大地震救援のためトルコへ艦船を派遣したが、こうした 場合に急に英語のスペシャリストは乗せられない。海外の大使館勤 務など、専門的な英語が必要な自衛官以外にも素養として英会話の 重要性は増している」。尾崎通夫学校長は、そう説明する。

 海自隊には、もともと同校を出た年に練習艦隊で世界を回る「遠 洋航海」など、国際化教育の場はあった。しかし、一九九一年のペ ルシャ湾掃海部隊以降、国連平和維持活動(PKO)や災害派遣な ど、海外で活躍する機会は急増した。

 「視野が広がった」

 それに応じた人材育成のため、同校のカリキュラムも九五年以 降、見直された。防衛大や一般大学などを出た候補生が幹部になる 前の一年間の基礎教育で、航海、通信など伝統的な「術科教育」を 思い切って減らし、「国際化」に振り向けたのだ。

 四月八日、東京・晴海ふ頭。遠洋航海に出る準備をする練習艦 「かしま」(四、〇五〇トン)の士官室で尺田隆一・三尉=広島県安 芸郡熊野町出身=は「幹部候補生学校での経験は、国際的な視野を 広げてくれた」と振り返った。二十四歳。三月、同校を出て幹部に なった二百四十六人の一人である。

 「国際法の授業や、安全保障についてのセミナーが特に勉強にな った」と言う。いずれも幹部候補生学校の新カリキュラムの柱とし て新たに導入された内容だ。

 中でも、九月から十二月にかけて行われるセミナーは候補生に人 気が高い。座学を離れ、小グループに分かれて調べたテーマを自由 に議論する。現在の国際情勢分析のほか、戦術面では中国の『孫子 の兵法』も取り上げた、という。

 尺田三尉は中学卒業後に入隊。呉地方総監部などに勤務しながら こつこつ勉強し、同校に内部合格した。海自隊の国際的な活動にあ こがれていただけに、実務一本の勤務と違った授業は、新鮮だっ た。

 国防任務 伝統守る

 同校の改革はカリキュラムにとどまらない。九七年には、新しい 学生館(寄宿舎)の完成で、前身の旧海軍兵学校時代から続いた三 十人部屋から、四人部屋に変わった。ただ、分刻みの日課、カッタ ー訓練、十五キロ遠泳などの「伝統」は続く。尾崎学校長は言う。 「国際貢献などを自衛隊の志望動機とする人は増えていると思う。 だが、国防という任務と幹部に求められる基本は変わらない」


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