中国新聞

タイトル 第3部 ルポ・自衛隊は今 
 
 2.機雷掃海

米海軍の弱点カバー
 「ペルシャ湾」で自信

 海上自衛隊岩国航空基地から、大型の掃海ヘリコプター「MH― 53E」に乗って約四十分。周防灘上空に入り、大分県国東半島沖 に着いた。同型のヘリが風圧で海面に波紋を広げながらゆっくり飛 んでいた。よく見ると、後部からは機雷除去のため掃海具を引っ張 るロープが延びていた。

掃海訓練を続けるヘリコプター「MH−53E」や掃海艇。 日本の掃海能力は、世界有数のレベルになった(2月23日、大分県沖の周防灘)

 今年二月二十三日、日米共同で毎年この時期に展開する周防灘の 「掃海特別訓練」を取材した。海自隊の参加は呉、岩国などから掃 海艦艇十八隻、ヘリなど十八機。米軍は佐世保基地にいる掃海艇二 隻だけだ。共同訓練と言っても海自隊の「独壇場」。前日、米軍は 自身の訓練は終えたとして、二週間の日程の五日間を残し、既に現 場を離れていた。

 根気いる処理作業

 周防灘の訓練では、九十個の模擬機雷が、海中に落とされた。接 触して爆発するタイプ、音や磁気に反応するもの…。ヘリや掃海艇 は、掃海具を引きながら丹念に往復、根気よく処理していった。

 一九九七年の日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)。 「周辺事態」における領海・公海での機雷除去は、当然のように盛 り込まれた。機雷は艦船に致命的な打撃を与える。海軍力を誇る米 国も極東や太平洋地域の機雷対策は弱点。それだけに海自隊への期 待がかかる。

 「機雷除去について、われわれの能力が認められたということ。 誇りに思う」。ヘリが降りた呉の掃海母艦「ぶんご」(五、六五〇 トン)で、訓練指揮官の平井良彦・第二掃海隊群司令(現掃海隊群 司令)は胸を張った。「任務が与えられれば淡々とやるだけ。もと もと危険が伴う仕事であり、特別な緊張感はない」

 九一年に、掃海部隊が呉基地などからペルシャ湾に出動し、湾岸 戦争でイラク軍が敷設した機雷三十四個を処分した。これが自衛隊 の海外派遣の先例となった。その参加経験を持つ「ぶんご」の木津 宗一艦長は「あれが大きな自信となった」と言う。

 戦後、海上保安庁が日本近海の掃海の経験を積み重ねた。それを 引き継いだ海自隊は、中東で優れたマンパワーを発揮した。

 装備、一気に充実

 ただ、装備は共に掃海に当たったイタリア、ドイツなどに見劣り した。その教訓から、「ぶんご」などヘリを活用して外洋掃海がで きる大型の掃海母艦が相次ぎ就役。日本の装備は一気に充実してい った。

 五月二十七、二十八の両日、「ぶんご」は、香川県高松港で一般 公開をした。海自隊呉教育隊史料館に保存してある、海部俊樹首相 (当時)から掃海部隊にあてられた感謝状や、処理済み機雷などペ ルシャ湾関係の資料も並べられた。指揮官だった会社社長落合o (たおさ)さん(60)=神奈川県鎌倉市=も二十八日、艦内で講演し た。

 少ない訓練の機会

 落合さんは振り返る。「掃海は、地道な訓練をやっていかない と、いざという時に、力にはならない。ペルシャ湾でそう痛感し た」。現場の平井司令も「訓練の機会はいくらでも欲しい」と言 う。

 だが、漁協に補償金を払って確保できている掃海訓練の海域は、 全国でわずか三カ所。本格的な訓練のチャンスは、一年で数えるほ どしかない。


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