中国新聞

タイトル 第3部 ルポ・自衛隊は今 
 
 1.特別警備隊

装備も訓練も霧の中
 「最高機密」公開拒む

 六月二十八日の広島県安芸郡江田島町議会本会議。平木重巳町長 は町政報告で、こう切り出した。「四月に、海上自衛隊呉地方総監 部と広島防衛施設局から説明があった。『施設の規模など詳細は現 時点で不明だが、騒音などで迷惑施設にならない』ということだっ た」

江田島湾に面する海上自衛隊第11海上訓練指導隊の 広い敷地。この一角に来春「特別警備隊」ができる(広島県江田島町大原)

 町議会報告は1分

 来年三月、江田島に設置される六十人規模の「特別警備隊」につ いての報告は、一分足らずで終わった。

 町中心部から西に約三キロ。対空ミサイルの無人標的機を整備し ている海自隊の第一一訓練指導隊の一角に、隊舎と訓練場が建設さ れる。洋上の不審船に武装して乗り込み、抵抗すれば、武力で制圧 するのが任務だ。

 海自隊はもともと、人間同士の「白兵戦」は想定していない。そ の常識を超える部隊新設の引き金となったのは、昨年三月、日本海 で起きた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の工作船とみられる不 審船の事件だ。政府が自衛隊に初の「海上警備行動」を発令した が、捕そくできず、逃した。

 関係閣僚会議が事件の教訓から、同様の不審船に対応できる「要 員の養成と訓練実施」を提言したのは、昨年六月。防衛庁は隊新設 の経費として十億円を八月、予算要求に追加した。全国四カ所の候 補地の中から後方支援態勢や訓練環境を理由に、江田島への設置が 内定した。

 「相手国」強く意識

 「部隊名と、江田島に設置すること。それ以上のことは何も言え ない」。防衛庁の海上幕僚監部で、特別警備隊の準備を担当する早 野禎祐編成班長の答えは、つれなかった。

 「装備や訓練をオープンにすれば、『相手国』に筒抜けになって しまう。それが分かったら部隊の意味がない。霧に包ませるのが重 要」。特に訓練の中身は、それだけで部隊の実力が分かる最高機密 という。

 ただ、これまでの国会答弁や、関係者の話から、部隊の概要が少 しずつ分かってきた。「約二十人単位の三チーム。一部は既に全国 の若手隊員から選抜し、訓練に入っている」「装備はガス銃、ガス 探知器、酸素濃度計、機関けん銃、防弾救命胴衣、特殊警棒、手錠 など」「部隊移動には、岩国基地などのヘリコプターをフルに活用 する」

 江田島町には昨年から計三度、呉地方総監部の幹部らが説明に訪 れたが、こうした情報は町民には伝わっていない。議会広報特別委 員長を務める和田敏町議は強い口調で言う。「部隊の必要性は否定 しないが、どんな部隊で、なぜ江田島に来たのか、住民への情報公 開は必要だ。『詳細は不明』で済む問題ではない」

 理解のある自治体

 江田島町にはかつて海軍兵学校があり、戦後も海自隊の第一術科 学校、幹部候補生学校などとともに歩んできた。全国で自衛隊に最 も理解のある自治体の一つと言ってもいい。「だからどんなもので も持ってこれると思っているのでは」。和田町議はそう言葉を継い だ。

 来春の開隊の際、特に行事はなく、住民との交流もない。警視庁 などの特殊急襲部隊(SAT)と同様、テロへの警戒から隊員名す ら秘密にされる可能性もある。

 防衛庁が掲げる「開かれた自衛隊」の方針と相反する「秘密部 隊」の設置。海自幹部の一人は「ジレンマもありますよ」と漏らし た。


Menu Next