中国新聞

タイトル 第2部 自治体の課題 
 
 2.非軍事協定

「協力義務」と板挟み
 開港時は想像できず

 益田市議会で総務委員長を務める社民党の下岡勝市議は、今も悔 しがる。「軍事利用は認めない協定があるのに…。緊急着陸との説 明を受けたが、『ガイドライン法もできたし、ちょっと使ってお け』ぐらいの意図もあったのだろう」

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昨年、米軍機が緊急着陸した石見空港。「軍事利用は許可し ない」協定と周辺事態法の兼ね合いが議論になっている
(益田市)

 昨年六月十日のこと。益田市の島根県営石見空港に、米軍岩国基 地の戦闘機FA18Cホーネットが、燃料切れや機器故障を理由に緊 急着陸する。その二週間余り前には、日米防衛協力のための新指針 (ガイドライン)に基づく周辺事態法が成立していた。

 市議会は本会議の最中。市幹部も議員も議事を止めて対応に追わ れた。一九九三年の開港以来、米軍機着陸は初めて。下岡市議らの 頭にまず浮かんだのが、「軍事利用の空港利用は許可しない」とい う、九〇年の県と市の協定だった。

 存在知らない市長

 今回は急な着陸のため、県が許可するかどうか検討する時間もな かった。「石見空港は民間利用のための空港」。市や市議会は、協 定の存在を根拠に、米軍側に強く抗議する。九六年に就任した田中 八洲男市長は「私自身、協定があることをよく知らなかったが、す ぐ勉強して対応した」と明かす。

 「協定」は、八〇年代の益田市議会の空港誘致運動の過程で生ま れた。

 当時、成田空港の反対運動の教訓から、運輸省は地方議会の空港 設置の陳情には「全会一致」を期待した。益田市議会でも全会一致 を図るため、社会党(当時)や共産党が求めていた「軍事利用は認 めない」との項目を、県と市の協定に盛り込むことにしたのだ。 「だが、当時は周辺事態法ができるなんて想像もできなかった」と 下岡市議。

 明確に答えぬ政府

 石見空港にとどまらず、同様の協定は、各地の空港で相次いで結 ばれた。中国地方では広島、出雲、隠岐、鳥取の各空港にもある。 ところが周辺事態法は、米軍による空港の軍事利用を、自治体に協 力要請できるとし、政府は「一般的協力義務」と位置付ける。

 「それでは協定はどうなる」。周辺事態法の成立後、自治体から の疑問が政府に寄せられているが、その高い関心に対する明確な答 えは出されていない。

 戦略的関心裏付け

 日本海に面した石見空港は、岩国基地から見ると、朝鮮半島に向 かう途中にある。実は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑 惑が表面化し、朝鮮半島情勢が緊迫していた九四年八月、米軍の戦 略的関心を裏付ける事件があったことは、ほとんど知られていな い。

 突然、米軍が「石見空港をヘリコプターの訓練に使いたい」と申 し入れてきたのだ。滑走路を空母に見立て発着をする「タッチ・ア ンド・ゴー」。だが、島根県はその時は「非軍事協定」をたてに不 許可とした。

 こうした経緯もあるだけに、石見空港を管理する県は戸惑う。 「周辺事態法という法律ができた以上、基本的には協力しないとい けない。一方で、協定は今も生きている。どう考えればいいか本当 に困っている」。土木部の担当者は、ジレンマを隠さない。


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