【解説】 原告四十一人全員を原爆症と認定するよう判断した広島地裁判決は、大阪地裁判決の流れをさらに加速させ、被爆者救済の範囲を大きく広げた。国は「原爆被害」を正面からとらえ直し、被爆者援護政策を根本から改めるべきだ。
判決は、国が原爆症認定審査のよりどころとする「原因確率」を「一応の参考資料」と言い切った。「残留放射線による外部被曝および内部被曝を十分には検討していないといったさまざまな限界や弱点がある」と指摘。大阪地裁判決と同様、審査方針の機械的適用を批判し、「全体的、総合的な検討」の必要性を説いた。
原告には、従来の制度からすると、認定が困難視される二キロ以遠の直接被爆や、入市被爆者もいた。しかし、原告たちに国が用いる推定被曝線量からは、想定できない急性症状などが出ていたことを重視。放射性降下物による被曝の可能性やちりなどを吸い込むことによる内部被曝の可能性も判断材料とした。
放射線の人体への影響には未解明な部分が多い。ただ、判決では、これまで認定の対象とならなかった前立腺がんや狭心症、骨折など約十五の疾病についても原爆による「起因性」を認定。「原因確率」によるのではなく、あくまでも被爆者の実態に即した判断を求めた。
まもなく被爆六十一年を迎える今なお、原爆被害の全体像は解明できていない。全国の原告百八十三人のうち、すでに二十四人が判決を待たずに亡くなった。被爆者を今も苦しめる原爆の非人道性を、被爆国日本の政府が、どう受け止めるのか。残された時間はわずかである。(森田裕美)
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