被爆者援護法に基づく原爆症認定の申請を却下したのは不当として、広島、山口両県などの被爆者四十一人が、国に却下処分の取り消しと一人三百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が四日、広島地裁であった。坂本倫城裁判長は、「疾病はいずれも放射線が原因」と判断、原告四十一人全員について却下処分を取り消した。賠償請求は棄却した。原爆症認定集団訴訟の判決は、五月の大阪地裁に続き二例目。いずれも原告全員の勝訴となった。(松本恭治)
判決は、国の認定基準の「限界や弱点」を明確に指摘。原告全九人を原爆症と認めた大阪地裁判決をほぼ踏襲した上で制度の抜本的改善を迫る踏み込んだ内容となった。事実上の原告全面勝訴と言え、他の訴訟や被爆者援護行政の在り方に影響を与えるのは必至だ。
政府筋は同日、控訴の方向で検討する考えを示した。
国は従来、爆心地からの距離で放射線の被(ひ)曝(ばく)線量を推定する方式「DS86」を基準に認定するかどうか審査。二〇〇一年からは同方式に加え、性別や年齢、病名別に病気の発生確率を算定する「原因確率」を導入している。
坂本裁判長は、DS86で得た放射線被曝線量について「最低限度の参考値」と指摘。さらに、原因確率について「残留放射線による外部・内部被曝を十分に検討していないなどの限界や弱点がある」とした。
その上で、「基準を機械的に適用すべきではなく、一応の参考資料としての評価にとどめ、原告ごとの被爆状況や被爆後の行動、急性症状などを総合的に考慮して検討する必要がある」と判断。特に急性症状を「重要な判断要素」と位置付け、爆心地から二キロ以遠での遠距離被爆者や、一九四五年八月十九日まで爆心地近くに入った入市被爆者も、幅広く認定した。前立腺がんなど、これまで認定の対象外だった疾病も認めた。
六十二〜九十四歳の原告のうち、三十九人は四五年八月六日、爆心地から約〇・五〜四・一キロで被爆、残り二人は入市被爆した。その後、がんや白内障を患い、認定を申請したが、いずれも国に却下された。原告は当初四十五人いたが、既に十人が死亡。取り下げもあり、遺族継承を含めて四十一人が争っていた。
原爆症訴訟判決骨子
一、原告四十一人はいずれも原爆症と認定でき、厚生労働相の原爆症認定申請却下処分を取り消す
一、原因確率には残留放射線による被曝を十分に検討していないなどの限界があり、原告ごとに被曝状況などを総合的に考慮して認定判断しなければならない
一、発熱や下痢などの急性症状の存在は被曝の事実を示す有力な証拠となり、認定の判断要素とすべきだ
一、国の認定基準自体が誤っていたとはいえず、審査に注意義務違反はない。賠償請求は棄却する
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原爆症認定集団訴訟 がんなどの病気やけがを「原爆症」と認めるよう申請したが、国に却下された被爆者たちが集団で、国に却下処分取り消しなどを求めている訴訟。2003年以降、広島や大阪など全国の15地裁で提訴され、原告は183人(7月末現在、日本被団協まとめ)に上る。原爆症と認定されれば、月約14万円の医療特別手当が支給される。認定された被爆者は3月末現在、2280人。約26万人いる被爆者全体の1%にも満たない。集団訴訟で初めて判決が出された大阪地裁では、原告9人全員が勝訴し、原告と国の双方が控訴した。
涙出るほどうれしい
重住澄夫原告団長の話 大阪地裁の判決後、広島でも全員勝てると確信していたが、実際に勝訴判決を聞き、涙が出るほどうれしかった。被爆地での全面勝訴は、これまで原爆症認定をあきらめてきた被爆者や、他地域での裁判にも大きな影響を及ぼすはず。国には控訴してほしくない。
コメント差し控える
厚生労働省健康局の石井信芳総務課長の話 判決の具体的な内容を確認していないのでコメントは差し控えたい。今後の対応は、判決内容を確認の上、関係省庁とも協議して検討したい。
【写真説明】原爆症認定訴訟の判決を受けて、「全面勝訴」の紙を掲げて喜ぶ支援者ら=4日午後3時10分、広島市中区の広島地裁前(撮影・高橋洋史)
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