原爆症認定の申請を却下した国の判断をめぐる広島地裁での集団訴訟。放射線が人体へ与える影響には未解明な領域が多く残る中、病気の原因が原爆かどうかを「線引き」する国の基準について、司法はどう判断を下すのか。四日の判決を前に争点を整理する。
国の認定基準は、主に爆心地からの距離で放射線被曝(ひばく)線量を割り出す線量推定方式「DS86」と、被曝線量を基に年齢や性別、病気ごとに算出した発症確率を組み合わせた手法を用いている。
DS86は、爆発時に出る放射線を対象とし、爆発で生じた放射性降下物質や内部被曝による線量やその影響は不明な点が多い。今回の裁判で遠距離や入市被爆の原告らが訴える脱毛や嘔吐(おうと)などの急性症状は、DS86による被曝線量からはあり得ないとされる。
国側はあくまで、放射線による原因を否定。これに対し、原告側は内部被曝など未知の影響を訴え、鋭く対立した。五月の大阪地裁判決は、急性症状を重視し、国の基準の矛盾を指摘している。
さらに、放射線全般の科学的グレーゾーンをどう評価するのかも争点になる。放射線は、宇宙線や食物などを通じ、だれもが一定量を浴び、日常生活と無縁ではない。半面、人体に与える影響はなぞの部分が多く、がんなどの原因にはたばこなどの生活習慣も大きく影響している。
「学問としてまだまだ未熟」と、横路謙次郎広島大名誉教授(病理学)が指摘するように、現代科学の限界を前提に、国の認定制度は成り立っている。司法が、このグレーゾーンをどう裁くのか。結論次第では、認定制度の根幹を揺るがしかねない。(滝川裕樹)
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