INDEX

BACK

NEXT

特 集

2003.6.8
(3) 兄弟の「確率」  肝臓と胃 がん部位で差

 二人は、ほぼ同じ場所で被爆した。それから五十八年。七歳上の兄は原爆症の認定を受けた。弟はしかし、却下された。

「兄とどこが違うのか」。認定申請が却下された沖田さん

 広島市安佐南区の沖田武明さん(65)。その兄を今年三月、肝臓がんで亡くしていた。認定通知が来てから、わずか一カ月後のことだった。

 距離、共に1.6キロ

 「国は私と兄と、どこが違うと言うのか」

 沖田さんは爆心地から一・六キロ、楠木町(現西区)にあった寺の廊下で被爆した。三篠国民学校の分校になっていた。兄は、そこから百メートルの自宅にいた。爆心地から同じく一・六キロ。

 互いを探した二人は、自宅と寺の中間で出会うことができた。一緒に安村(現安佐南区)へと逃げた。途中、黒い雨にも打たれた。

 その後は毎日のように、行方の分からない姉を探して、がれきの街をさまよった。原爆投下の翌日だけ同行しなかったが、それ以外、沖田さんは兄と一緒だった。

 やがて二人とも、がんを患う。違うのは、兄は肝臓であり、弟は胃。兄は手遅れだった。弟は昨年までの十年間、三回の手術を繰り返し、最後は胃をすべて摘出した。

 「兄はもう、手術できる状況になかった。無念だ。私は手術できたからこそ、今生きている」

 兄は昨年七月、日本被団協の呼びかけに応じて原爆症の集団申請に加わった。沖田さんも、兄の勧めで二カ月後の九月、胃がんで申請した。今年二月、却下通知が届き、四月下旬、異議を申し立てた。棄却されれば八月上旬、広島で予定されている第二次集団提訴に加わるつもりだ。

 沖田さんへの却下通知にはこうある。「貴殿の疾病の原因確率を求めました。原爆の放射線に起因していないと判断されました」。申請した病気が、がんの場合、国は一般に「原因確率」を目安に使う。

 原因確率とは、がんを引き起こすさまざまな要因のうち、放射線の占めるであろうウエートを示す。爆心地から近く、年齢が若いほど数字は高くなる。被爆距離や年齢が同じでも、がんの部位によって数字は異なる。

 数字で線引き

 却下通知に具体的な数字は一言もない。厚生労働省がホームページで公開している表に当てはめると、肝臓がんの兄は10%台、胃がんの沖田さんは10%に満たない。

 原因確率が50%以上なら放射線の影響の可能性が「ある」とされ、10%未満なら「低い」。ただあくまで、被爆者全体のデータから算出した確率だ。ある人のがんが被爆のせいなのか、生活習慣のせいなのか、個別のケースの断定はできない。

 「機械的な線引きで、悲惨な経験を簡単に扱っているとしか思えない」。沖田さんはやるせなさを口にする。

 ケースワーカーとして認定申請を支援する原爆被害者相談員の会の三村正弘さん(57)も、こう指摘する。「放射能の怖さを体験した被爆者が、自分の病気が原爆のせいだと思うのは当然のこと。原因確率を持ち出すより、手当の金額を下げてでも、認定の間口を広げてはどうか」