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核時代と中枢同時テロ 2002/01/09


〜米の歴史家2氏 連名で寄稿〜


過ち重ねた米外交 被爆国として働き掛けを

 一九四五年八月、米国は原子爆弾よって広島・長崎を破壊した。その破壊には、米国政府が注意を払おうとしなかった、将来における潜在的な核惨事を警告する意味合いが含まれていた。

 科学者として原爆製造の「マンハッタン計画」を指揮し、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマー博士は、彼が生み出した核兵器の恐るべき意味を即座に理解し、その威力を無力化しようと働きかけた。

 原爆投下のその年、博士は核軍備競争と関連づけて核兵器の危険を公に語り始めた。翌四六年には、原子力エネルギーの国際的管理のために、秘密裏に国務省の政策立案にかかわった。四六年春、彼は議会に対して、身の毛もよだつような核の未来がもたらす展望について検証するように迫った。

 オッペンハイマー博士は、いつの日か数人の男たちが小さな原爆をニューヨーク市へひそかに持ち込み、同市を破壊してしまうと上院議員に警告しながら、核軍縮への道を強く訴えた。

 
■ ■ ■
 
 昨年九月十一日、民間旅客機をハイジャックしたテロリストたちは、ジャンボ機を大量破壊兵器にかえてしまった。将来彼らは、使用済み核燃料を爆薬で覆い使用するかもしれない。もし彼らが自らの命を犠牲にする覚悟ができているなら、その行為は高い成功率をもって達成されるだろう。

 最近のイスラエルの歴史が示す通り、パレスチナ人の自爆テロ行為に対し、確固とした防衛手段がないというのは、厳然たる真実である。

 アメリカが誇る最強の防衛ラインというのも、われわれの国民性や評判と同じほどに頼りがいのないものである。九月十一日の悲劇的な出来事は、第二次大戦後のアメリカ外交の究極的な失敗を意味していた。

 アメリカ人は、大戦後のドイツや日本の民主的な再建に手を貸すことで確立してきた「寛大さ」や「賢明さ」というわれわれ自身の評判を、あまりにも長い年月にわたって浪費してきた。

 ヨーロッパとアジアにおいて達成したこれらの価値ある成功にもかかわらず、その後のアメリカ政府は、第三世界における民主的な原則を無視して行動することを選択したのだ。

 われわれは第三世界を戦場に冷戦を戦った。朝鮮、ベトナム、グアテマラ、コンゴ(旧ザイール)、キューバ、チリ、ニカラグア、そして中東の全域において…。長い介入リストには、茫(ぼう)然とするばかりである。ソ連の崩壊後、アメリカの政治指導者たちは「世界唯一の超大国」という地位に立脚して、一国主義の外交政策をあまりにも頻繁に追求してきた。

 だが、今こそアメリカはこれまでとは根本的に違った新しい外交を必要としている。現実主義と理想主義の間の、偽善的で破壊的な冷戦的二分化外交は放棄されなければならない。高い道義的原則から逸脱した外交は、今日の相互依存の世界にあって現実的ではあり得ない。

 アフガニスタンでの今回の勝利は、永続的な新しいアフガン国家の建設につながるかもしれない。だが、もしアメリカが再びこの国の民衆を抑圧するような独裁的な政権と結託することになれば、われわれを守ることにはほとんど役立たないだろう。必要なのは、テロという自殺的行為をはぐくむような潜在的な問題をなくすための賢明な外交である。

 
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 われわれは国家として、四五年以前に戻る必要がある。それはヒロシマ以前であり、恒久的核武装国家への道をたどる前の状態である。

 ほとんどのアメリカ人は、第二次大戦後のアメリカ外交の基本となったフランクリン・ルーズベルト大統領が描いたニューディール政策について記憶していない。基本的人権、自決権、発展途上国における植民地の終焉(えん)、核軍縮、国際法、世界法廷、国際連合―これらが当時の民主党の進歩派の考え方だった。

 われわれは、基本的人権に基づいたルーズベルト的ビジョンによる外交政策に戻らなければならない。弱者や苦しむ人々の悲嘆を、国連や世界法廷、新しくつくられる国際刑事裁判所に持ち込み、彼らを勇気づけなければならない。それはまた、わが国自体が国連や世界法廷での決定に従わなければならないことを意味する。

 アメリカ人は、ドルや巡航ミサイル、秘密の軍事裁判所によって世界を支配するのではなく、国際社会と協力しなければならない。政府がミサイル防衛(MD)のために支出しようとする何十億ドルもの予算は、平和のための合意推進に役立てたり、世界の最貧国社会の基本的ニーズのために投資されるべきである。

 そしてわれわれは今こそ、核兵器との共犯的な関係に終止符を打たなければならない。核兵器は都市を破壊するだけでなく、文明そのものを蝕(むしば)んでしまう。オッペンハイマー博士が「核兵器の比類のない威圧力と同時に、それが併せ持つ不可避の秘密性は、どのような自由社会をも必然的に破壊してしまう」と書くとき、彼は明確に「文明の腐敗」を指摘したのである。

 アメリカの著名な外交官で、共産主義の「封じ込め政策」を考え出したジョージ・ケナン氏は、オッペンハイマー博士が、四六年の早い時期に、ケナン氏に次のことを確信させたことを思い起こす。すなわち、「中身がどれほど建設的な事柄であれ、核兵器の威力を振り回すことで達成できるとするどのような考え方も、愚かしく見える」と。

 二〇〇二年が幕開けした。リニューアル期に当たる年明けのこの時期にこそ、アメリカ人は自国政府に対し、外交政策を根本的に変えるように要求しなければならない。その際、最も重要なのは、わが国が広島・長崎の破壊に内在する未来の惨事への警告をしっかりと受け止めて、行動することである。 

 
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 同盟国であると同時に被爆国でもある日本は、政府レベルでも民間レベルでも、わが国がそうした行動を取るように強く要求してもらいたい。そのことが、われわれアメリカ人の手助けになるのである。

 われわれは核兵器を解体し、このような兵器の開発や所有を禁止する国際条約の交渉を始める必要がある。そのことが、地球上のすべての子どもたちに二十一世紀の生存を保障する最大のチャンスを与えることになるだろう。
 (原文は英語)


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