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   その5 さよなら どんぐり 
 
 
    どんぐり横丁は、さびれた商店街だ。
  どんぐり横丁には、むかしのものがたくさんのこっている。むかしの味ものこっている。それが、今どきのぼくたち子どもには、ひどくしんせんだった。
 
  そんなどんぐり横丁が、とりこわされるとしったのは、ある日の夕がたのことだった。
  どんぐり横丁をとりこわして、駅前いったいに、大きなお店をつくるのだというニュースに気づいたのは、母さんだった。
  「ここをとりこわして、ショッピングモールをつくることが正式にきまったそうですが、どんなお気もちですか?」
  おどろいたぼくと母さんが、画画に見いっていると、つぎのしゅんかん画面にうつったのは、なんとおたふく堂のおばあちゃんだった。
  あいかわらず、満面のえみをたたえたおばあちゃんは、ゆっくりと言った。
  「時代のながれじゃけえ、しかたがないですわ。でも、このところ、子どもがぎょうさん、買いものにきてくれるようになっとったんですわ。さいごの、さいごに、ええ夢をみさせてもらいました。ほんま、ありがとうさん」
  画面の中のおばあちゃんのひとみから、なみだがポロンとながれ出た。えがおのまま、おばあちゃんはないていた。
  「ほんま、ありがとうさん」
  おばあちゃんのことばが、ジーンとむねの中にこだました。
  ぼくたちが、どんぐり横丁のとりこわしにはんたいしたことは、いうまでもない。けれど、どうすることもできなかった。
  こわされていくどんぐり横丁をじいっと見つめながら、どんぐり横丁の人たちは、おわかれにきたぼくたちにこう言った。
  「みんながはんたいしてくれたけえ、ほんまにうれしかった。はんたいしてくれる人がおるうちにやめるんが、一ばんじゃ」
 
  どんぐり横丁は、もう、ない。
 おわり
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