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   その5 うた屋さん 
 
 
    ある朝、かやねずみのちいねずちゃんが、さんぽしていると、どんどん池のほうから、なんだかそうぞうしい声がきこえます。
  ちいねずちゃんが、池をのぞいてみると、池の中ほどの、うき草の上に、ぬまがえるたちがあつまって、うたの練習をしているところです。
  いちばん大きなかえるが、大きな声でいいました。
 「ちがうわ。ゲルレったら。よくおききよ。さんびかっていうものは、こんなぐあいに、しずかに、うたうんですよ」
  大きいかえるは、大きな声でうたいはじめました。
  ガルガルガルガルガル……
 「わかったわ。ガルレ。こうね」
  ゲルゲルゲルゲルゲル……
  そういって、もう一匹が、そっくりな声で、いっしょにうたいだすと、そばにいる、ふとった一匹がいいました。
 「ちがうったら。ふたりとも、なんて、やかましい歌だ。しかも音程がめちゃめちゃだ。おれの歌をよくおきき。『さんびか百五番。雨の日はうれし』だ」
  ふとったかえるは、むねをはって、うたいはじめました。
  ゴルゴルゴルゴルゴル……
  やっぱり、そっくりな声です。
 「わかったわゴルレ。こうね」
  そういって、はじめの二匹が、いっしょにうたいはじめると、ほかのなかまもみんな、いっしょに、ねっしんに歌いだしました。
  ゲルガルゴル ゲルガルゴル
  ゲルガルゴル ゲルガルゴル
 「まるで、きょうりゅうが百匹で、うがいしてるみたい」
  ちいねずちゃんは、あまりのそうぞうしさに、あっけにとられながらいいました。
  よくあさ、ちいねずちゃんは、もっとびっくりしました。
  森のまん中新聞に、こんなおりこみ広告をみつけたからです。
 
 
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 『うたや店主かえる』
 |  (おわり)
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