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   その1 かげ屋さん 
 
 
    「かげ、売ります」
  森につづく、いっぽんみちのところどころに、こんなかんばんがならんでいます。
  だれかが、また、あたらしい商売を、はじめたようです。
 「へえ。かげって、なんのかげかしらん」
  かんばんをみつけた、かやねずみのちいねずちゃんは、さっそく、かんばんにかいてある、やじるしのほうこうに、行ってみることにしました。
  やじるしは、いっぽんみちからそれて、まがってまがって、やがて、小川のそばの、大きなくすの木の下に、ちいねずちゃんをつれていってくれました。
 「いらっしゃあい」
  くすの木の下には、さわがにが、いっぴき、赤いはさみをふりあげて、まっています。
 「かげって、なあに?」
  ちいねずちゃんがたずねると、
 「きょうのかげは、くすの木のかげですよ。スカーフに、ぴったり。いちまい、いかがです?」
  はさみをしょきしょきならして、さわがにが、いいました。
  ちいねずちゃんの、あたまの上には、大きなくすの木が、えだをひろげていて、そのえだのかげが、じめんをすっぽりおおっています。
 「じゃあ、一まい、ください」
 「はい、ちょっとまっててね」
  さわがには、みぎての赤いはさみで、あしもとのうすぐらいかげを、じめんからじょうずにはがすと、ひだりてのはさみで、しゃきん、と、きりとりました。
 「はい、どうぞ。きょうのは、とくべつ、いいできですよ」
  なるほど、ちいねずちゃんがくびにまくと、かげのスカーフは、ふわりとかるくて、ひんやりきもちがいいのです。
  「ありがとう」とちいねずちゃんがいうと、さわがには、とてもうれしそうに、「よくにあいますよ。またきてくださいね」といいました。
  ちいねずちゃんは、スキップでかえっていきます。
  はやく、だれかに、かげのスカーフ、みせたいものね。
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