中国新聞社

'99.5.13

核軍縮への道
ミサイル防衛の愚かさ指摘 (5)

浪費と不毛の軍拡競争

リバブル・ワールド
会議委員長

ジョン・アイザックさん(54)
Photo
「より安価で確かな安全保障は、核軍縮を進めることだ」と力説するアイザックさん(ワシントン)
 シラード氏が設立

 ―リバブル・ワールド会議はどういう組織ですか。

 ハンガリー人で後に米国に亡命し、原爆製造の「マンハッタン計画」に参加した核物理学者のレオ・シラード氏が、一九六二年に設立した非政府組織(NGO)だ。

 ―六二年といえば米ソが核戦争のがけっぷちに立ったキューバ・ミサイル危機が起きた年ですね。

 そう。止まらぬ核開発競争に強い危機感を抱いたシラード氏が「生きるに適した世界」(リバブル・ワールド)を築くために、核開発に歯止めをかけてくれる議員を選ぼうと首都のワシントンに事務所を設けた。創設以来、シンクタンクの役割を一面で果たしながら、政府や上下両院議員らへのロビー活動に力を注いできた。

 ―現在はどのような課題に取り組んでいますか。

 米国との共同技術研究に日本も参加表明している弾道ミサイル防衛に、これ以上税金を浪費しないようクリントン政権や議員らに働きかけている。

 ―問題点はどこですか。

 現在、研究しているのは「米本土ミサイル防衛(NMD)」システムの構築と、日本や韓国、あるいは中東などに配備して同盟国や駐留米軍部隊を守ろうという「戦域ミサイル防衛(TMD)」システムの構築だ。NMDは八三年にレーガン大統領が推進しようとした戦略防衛構想(SDI)、いわゆる「スター・ウォーズ」の変形にすぎない。米政府は既に十六年間で、約六百八十億ドル(約八兆千六百億円)、年間四十二億ドル(約五千四十億円)を技術研究に費やしながら実験では失敗を重ねている。

 ICBMよりテロ

 ―SDIの時は、旧ソ連の大量の大陸間弾道ミサイル(ICBM)攻撃から米本土を守るということでしたが、冷戦後の今はイラクやイラン、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、あるいは偶発によるミサイル攻撃に備えると言っています。

 「ならず者国家」という言い方でね。でも、これらの国はまだICBMを開発していないし、核弾頭も所有していない。米本土への攻撃があるとすれば、ミサイルよりも、テロリストが直接本土に侵入し、有毒の化学物質や放射性物質をばらまくとかの攻撃の可能性の方が高い。

 TMDは軍備強化

 ―日本では北朝鮮のミサイル開発に強い警戒感があります。

 その懸念は分かる。しかし、鉄砲の弾をもう一つの弾で打ち落とそうというような難しい技術に税金を投入するのは間違った選択だ。北朝鮮が今のままでいつまで続くだろうか。それにNMDやTMD配備計画に対し、中国は猛烈に反発し、ロシアも反対している。核軍縮どころか、核軍拡競争の火種になりかねない。

 ―日本政府は「TMDは防衛目的」と言っています。

 それは日米の立場で、中国やロシアはそうは見ない。仮に中国が米国から核攻撃を受けたとしよう。それに対する報復攻撃がNMDで阻止されると仮定すれば、中国は多弾頭ミサイル開発など攻撃力を高めようとするだろう。TMDは日本の軍事力強化であり、中国からすれば台湾への配備という点も見逃せない。

 ―シラード氏が憂慮した米ソ冷戦下の軍拡競争の悪循環を繰り返すと・・・。

 全くその通りだ。技術的に極めて不確かな防衛構想に膨大な金を投入するのは、軍需産業を太らせるだけ。日本政府が国連などで訴えている核軍縮の促進や究極的核廃絶の方向とも、明らかに矛盾している。


 【メモ】米上下両院議会は今年三月、早くて二〇〇五年のNMD配備に賛成の議決をした。クリントン政権は来年六月、配備に賛成か反対かの態度を決定する。六年間、リバブル・ワールド会議委員長を務めるアイザックさんらは、問題点を指摘した本を出版するなど啓発活動に取り組む。



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