中国新聞社

'99.5.14

核軍縮への道
NATOの政策変更を提言 (6)

米とは異なる路線模索

カナダ国際平和安全保障
評議会部長

ペギー・メイソンさん(49)
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「カナダだけでは、NATOの核政策を変えることはできない」と話すメイソンさん(ニューヨーク市)
 報告書へ民意反映

 ―昨年十二月、カナダ議会は二年がかりで自国の核政策を包括的に見直す報告書を出しました。軍縮大使だったメイソンさんも証言していますね。

 「カナダと核の挑戦―二十一世紀のために核兵器の政治的価値を下げる」―題は硬いけど、核兵器廃絶に向けてカナダが世界のリーダーシップを取るべきであると明確にうたっており、基本的に素晴らしい内容になっている。

 ―十五項目にわたる勧告が含まれています。

 核軍縮に積極的に取り組んでいるニュー・アジェンダ連合諸国との協力や、米ロ間の第二次戦略兵器削減条約(START2)で、ロシアの批准促進に必要な経済的支援の実施など具体的な勧告となっている。もう一つの特徴は、世界の軍縮の進展状況などを一般市民や議員に知らせ、将来の核政策の合意形成に役立てなければならない、としている点である。

 ―市民社会とともに外交政策を形成していこうとの表われでしょうか。

 そう。この報告書作成過程でも、多くの非政府組織(NGO)の代表や市民が意見を述べている。政府とNGOの連携の重要さは、対人地雷禁止条約を実現させた「オタワ・プロセス」で実証済みだ。

 CTBT強力推進

 ―北大西洋条約機構(NATO)の一員であり、文化的にも最も緊密な関係にある米国に対して、なぜこれほど強い姿勢が取れるのですか。

 「核不拡散と核軍縮に関する東京フォーラム」に参加していて、日本の外務省の役人からも「NATOの核戦略である第一使用(先制使用)を揺るがすような提案をなぜするのか」と批判を浴びた。米国の核のカサの下にいるのだから、私たちはNATOの核政策の変更を迫るような提案をすべきではない、というわけ。カナダにとって米国と違う立場を取るのは、別段新しいことではない。

 ―と言うと?

 例えば、一九八九年から五年間、私がカナダの軍縮大使として国連での軍縮会議に出席している間、さまざまな決議のうちの五〇パーセントは、米国と違った投票をしていた。カナダなどが強力に推進していた包括的核実験禁止条約(CTBT)決議でも、私の任期中、米国は常に拒否し続けた。米ソ冷戦下でさえ独自の立場を取ってきたのに、なぜ今できないというのか。米国の核のカサの下にいるからといって、私たちはその状態を永遠に望んでいるわけではない。

 指針づくりに意欲

 ―核軍縮を進めることと何も矛盾しないと・・・。

 矛盾も対立もしない。核拡散防止条約(NPT)は、核保有五カ国に究極的な核兵器廃絶に向けて努力することを義務づけている。NATOの政策の構成員として、その政策が間違っていると思えば、それを変えようと努めるのは当然である。

 ―現実には米政府の圧力が随分あるのでしょうね。

 非常に憤っている。でも、米国社会で尊敬を集めている多くの米市民が、カナダの立場を支持してくれてもいる。そのことも忘れてはならない。

 ―東京フォーラムに参加しての感想は?

 討議は充実しており、今回のニューヨーク会議でかなり方向性が見えてきたと思う。七月に開く最終会議で、世界の指導者や多くの市民の指針になるような優れた内容の報告書を出したいと願っている。

(田城 明)

=おわり=


 【メモ】カナダ国際平和安全保障評議会は、オタワにある民間シンクタンク。外務省や国防省などから依頼された研究報告書などを多数作成している。メイソンさんは軍縮大使を辞した一九九四年以降、現職。軍縮問題や国連平和維持活動局のコンサルタントとしても活躍している。



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