中国新聞社

'99.5.12

核軍縮への道
国連職員として対話促進 (4)

中央アジア非核化に力

国連アジア太平洋平和
軍縮センター所長

石栗 勉さん(50)
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「外交も人間関係によって大きく左右される」と話す石栗さん(国連本部)
 95年から金沢会議

 ―外務省から国連軍縮局へ入って十二年。これまでに手掛けた主な仕事は何でしょうか。

 一九八九年に誕生したネパールの首都カトマンズでの軍縮会議は、今年三月で十一回を迎えた。日本での国連軍縮会議も七月の京都会議で十一回を数える。九五年からは、金沢市で北東アジアの対話を促すための「金沢プロセス」という会議も毎年開いている。いずれも最初からかかわったり、自分で始めた。最近は、中央アジア五カ国に非核兵器地帯をつくるための条約作成に協力している。

 ―今年のカトマンズ会議の内容はどうでしたか。

 韓国や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、インド、パキスタンなどアジア・太平洋地域の二十カ国から政府関係者や軍縮問題専門家ら約四十人が参加した。これまで核軍縮を唱えながら、核実験後は「最低限の抑止力が必要」と自国の核保有を正当化するインドへの風当たりは強かった。一方で、核保有国への批判も厳しく、この地域の安定のために中国の核の実態をはっきり示すべきであるといった声も出た。

 ―九六年の国連総会での包括的核実験禁止条約(CTBT)成立以来、核軍縮に向けほとんど進展が見られませんね。

 現実はむしろ後退している。でも、悲観ばかりしていても始まらない。地味だが地域間の率直な対話を積み重ね、信頼醸成を築くことが大切。それなしに安定した平和はもたらされない。

 ―「金沢プロセス」も、そういう意図から始めたのですか。

 その通り。日本の国連協会の主催で、石川県などの財政支援を得ている。最初は「国連が何をするのか」と、米政府などが会議開催に反対した。でも、対話のチャンネルを広げるのがなぜ悪いのかと、実現させた。

 北朝鮮参加も模索

 ―どういう会議ですか。

 日本、中国、韓国、モンゴル、米国、ロシアの政治家や学者ら二十数人が参加している。朝鮮半島の安全保障の問題から、環境や水資源、開発協力の問題に至るまでホンネで討議を重ねている。北朝鮮からの参加も模索しているが、まだ実現していない。

 ―今年も開きますか。

 六月二日から三日間、「二〇〇〇年以後の北東アジアの対話と協力」と題して開く。北朝鮮のミサイル問題や多国間における地域協力の在り方などを話し合う。

 ―中央アジアの非核兵器地帯条約は成立しそうですか。

 カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの五カ国は、九七年の国連総会に「中央アジア非核兵器地帯設置」に関する決議案を提出し、無投票で採択された。政治的には国際社会から認められており、条約文作成もカスピ海を含めるかどうかなど最終的な段階にきている。

 強いライバル意識

 ―実現すると東南アジア非核兵器地帯条約(九七年)に続いて世界で五地域目ということになりますね。

 そう。旧ソ連崩壊によって誕生したばかりの国家で、互いにライバル意識が強いなど難しい面もあるが、五カ国との対話を重ねながら条約実現を図っている。

 ―「核不拡散と核軍縮に関する東京フォーラム」をどうみていますか。

 核保有国の政策議題にのぼるような提言が出るかどうか注目している。七月の東京フォーラムで出される提案は、数日後に開く国連軍縮京都会議で紹介してもらうことにしている。米ロなど核保有国からの参加者も交え、その成果を討議することになるだろう。


 【メモ】「カトマンズ・プロセス」と呼ばれる軍縮会議を責任者として長年リード。日本での国連軍縮会議は一九八九年の第一回から企画・運営に携わっている。中央アジア非核兵器地帯の年内実現に向け、関係国との調整に全力を傾ける。九二年から現職。新潟県出身。



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