新たなスタートの時/市民の運動(下)
'98/5/17
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「市民が知恵を出し合い、核保有国を包囲する具体的な行動プロ グラムを」。インドの地下核実験の直後、平岡敬広島市長は呼び掛 けた。市民が平和を担い、行政が支援する仕組みの構築が持論であ る。その中心となるべき広島の非政府組織(NGO)は―。
機敏性生かせず
核実験を受け、数多くの平和団体が抗議文を送りはした。しか し、いち早く被爆者の派遣を決めたのは、既存団体の広島県原水禁 だけ。フットワークの軽さや運動の柔軟性がNGOの利点はずであ る。
「確かにNGO活動はまだ軌道に乗っていない」。市民活動の支 援を受け持つ市ひと・まちネットワークの増田学常務理事は認め る。市民活動のすそ野を広げる方針だが、今は「国際交流・協力」 「まちづくり」などのジャンル別に、市内のボランティア三百八十 団体を再編成した名簿を作製している段階だ。
こうした中で、広島アジア大会の一館一国運動を機に今年一月に 結成された「広島カザフスタン友好の会」は、経験も人脈もないな か、手探りで旧ソ連のカザフスタン共和国の医師を招待。セミパラ チンスク核実験場の被害に関する講演会を実現させた。現在は写真 展開催の準備を進める。現地の核被害者と連携し、核廃絶につなげ る試みだ。
会長の社会保険労務士、下崎末満さん(51)は「当初は思いつきに すぎなかった。行動力のある市民、カザフと交流がある団体や公民 館の支援がそろったのが幸運だった」と振り返る。
80年代、欧州で実証
平和運動における市民団体の力は、実証されている。米ソの全面 核戦争の脅威が高まった一九八〇年代、ヨーロッパで高まった反核 運動の推進力になった。
「アジアの一角のインドが核保有を明確にした今こそ、市民の力 を発揮すべき時なのに」。昨年末、「インド・パキスタンと平和交 流をすすめる広島市民の会」の一人として昨年末、インドを訪問し た森滝春子さん(59)はもどかしがる。
「今は市民運動のうねりが沈滞しているよう。でも、あきらめが 一番、怖い。核廃絶を向けて市民がそれぞれの政府を動かしていく 日を信じて、各国の市民同士の交流を一つ一つ積み重ねていくこと が大切なのでは」と訴える。
行政データを活用
平和行政に長年携わってきた増田常務理事は「発足したばかりの 広島平和研究所や広島平和文化センターなどによる世界の核状況分 析や具体的な政策提言を、NGOが活用できるようにしたい」と言 う。ヒロシマのNGOへの取り組みは始まったばかりである。
【写真説明】カザフスタンの写真・パネル展に備え、パネルをチェックする下崎会長