より強く広く世界へ/被爆地の訴え(上)

'98/5/16

 インドが十一日と十三日、立て続けに地下核実験を強行した。対 抗してパキスタンが地下核実験を準備していると伝えられる。世界 初の被爆地には、新たな核軍拡時代へ向かうのではないかとの不安 が強い。ヒロシマの進むべき道を探った。

 「一瞬にして罪もない多くの命を奪う原爆の怖さを知らないか ら、インドは核政策を転換したんだ」。インドが二度目の核実験を 強行した翌日の十四日夜。広島県原水禁が月一回、若い世代を対象 に広島市南区で開く原水禁学校で、代表委員の宮崎安男さん(69)が 語気を強めた。

 ▽核開発阻止へ 重み増す役割

 一九七三(昭和四十八)年以降、四百回以上も抗議の座り込みを 続ける宮崎さんは、年輪が刻まれた「核実験反対」のたすきを手に 「ヒロシマをもっと強く、はっきりと訴えなければならない」。被 爆から半世紀以上を経た今、再度原点に立ち戻った取り組み強化を 呼び掛ける。

 インドは七四年に核実験をした際、「平和利用」を強調し、その 後も非同盟諸国のリーダーとして、核兵器廃絶を主張。インドの平 和団体リーダーも原水禁世界大会に参加してきた。さらに、民衆は 被爆者に対して好意的だった。

 昨年十一月、インド、パキスタン両国を訪れた県被団協(伊藤サ カエ理事長)の坪井直事務局長が思い返す。「初めて聞く被爆者の 訴えに、熱心に耳を傾けてくれたもんです」

 それだけに、突然の「核クラブ」入りは、被爆者や平和団体に 「まさか」「裏切られた」との思いを強く抱かせた。予期せぬ展開 に坪井事務局長は「政治家の独断を許さないためには、被爆体験を 語り続けなければ」と、向こうの平和団体などとの交流によるネッ トワークづくりの大切さを説く。

 広島被爆者団体連絡会議の近藤幸四郎事務局長も「キノコ雲の下 にあった地獄絵図を十分に伝え、原爆被害にこだわったヒロシマの 実相発信が欠かせない」と強調。昨年パキスタンを訪れた被爆者の 佐々木愛子さん(63)は「軍事上の対抗手段で核開発をする愚かさ が、なぜ分からないのか」と悔しがる。これらの声を受け、県原水 禁は今月末に被爆者をインドに派遣する方針を決めた。

 インドの実験強行で被爆地の思いが伝わっていない現実が表面化 した。インドのマスコミは、国民の九割は核実験を支持していると 伝える。裏返せば、ヒロシマの役割が重みを増したとも言える。

 四月に開所した広島平和研究所の明石康所長は言った。「無力感 に打ちひしがれてはいけない」。県原水禁は十八日に会議を開き、 「被爆者外交」の具体的日程を詰める。

【写真説明】インドの核実験に抗議し、原水禁学校の受講生に訴える宮崎さん(14日夜、広島市南区)

新たなスタートの時/市民の運動(下)


Menu