開発技術 水爆レベル/インド

'98/5/17

 五回に及ぶインドの一連の核実験に対抗して、隣国パキスタンで は十七日にも核実験の実施が伝えられている。インドとの過去三度 の戦争に敗れ、通常兵器で劣るパキスタンでは、軍部を中心に「核 兵器こそ戦争を抑止する」との考えが根強い。英国植民地から独立 してそれぞれ五十一年。ジャムー・カシミール地方の領土の帰属を めぐり支配ライン(暫定国境)を挟んで今も戦闘を続け、核で対峙 (じ)し合う印パ両国の核開発の歴史と現状を見る。(田城 明編 集委員)


 ミサイル実戦配備の恐れ

 インドの原子力研究は、英国植民地下の一九三〇年代半ばから理 論研究が始まり、第二次世界大戦中の四〇年代初期には少数の物理 学者が核研究が進んだ米国カリフォルニア大学バークリー校などへ 留学した。

 英国から独立一年後の四八年には原子力委員会が誕生。核エネル ギーを「邪悪な目的に使用してはならない」とのジャワハラル・ネ ール初代首相の下で平和利用の道を探った。

 ガンジー首相決断

 しかし、六二年の中印戦争での敗北、二年後の初の中国の核実験 がインドの核兵器開発の引き金となった。そして、父親ネール氏と ともに被爆地広島を訪問(五七年)したこともあるインディラ・ガ ンジー首相は七四年、政治的決断を下し、今回の核実験場と同じラ ジャスタン州ポカランで初の地下核実験を実施した。

 現在、インドには十基の原発をはじめ、使用済み核燃料からプル トニウムを取り出す三つの再処理施設、天然ウランを燃料として使 用する際に必要な七つの重水工場、五つの研究炉、燃料工場や高速 増殖実験炉などの核施設がある。

 施設、多くが未査察

 しかも、六九年に稼働した米国製のタラプール原発二基以外は、 国際原子力機関(IAEA)による査察を一切受けておらず、原発 の使用済み燃料からプルトニウムを取り出し、純度の高い兵器用物 質に転用するのに何の支障もなかった。

 世界の軍備管理問題に詳しいストックホルム国際平和研究所(S IPRI)などの報告では、インドはこれまでに四百五十キロ以上の 兵器用プルトニウムを保有、原爆八十個の製造が可能だと推測して いる。

 核開発の実態は自国民にすら厚いベールに閉ざされている。しか し、国内にはさまざまな核分野の博士号取得者が優に一万人を超 え、核施設ばかりでなく人材面からも、高いレベルにあると言え る。私が取材した米国の核物理学者らは、インドの核開発技術は水 爆のレベルに達しているとみなしている。

 現に今回の一連の実験では、小型核兵器の開発とともに、水爆と 関連すると思える「熱核反応装置」の爆発実験にも成功したとバジ パイ首相は発表している。

 ミサイル開発の分野では、既に核搭載可能な中距離弾道ミサイル (射程距離二千五百キロ)の発射実験に成功しており、パキスタンが 核実験をすれば、実践配備へと突き進む可能性は高い。

 いつでも実験が可能/パキスタン


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