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長崎市『平和宣言』 1998年

平 和 宣 言

 核兵器、それは人類の滅亡をもたらすものです。今から五十三年 前、八月九日午前十一時二分、一発の原子爆弾が、ここ長崎市の上 空五百メートルでさく裂しました。死者七万四千人、負傷者七万五千人。 この世の地獄とも言うべき惨状でした。辛うじて生き延びた人々 も、あの日の出来事が心の傷として残り、今なお原爆後障害に苦し み、孤独と不安の日々を送っています。わたしたちは、あの八月九 日を決して忘れません。

 「長崎を最後の被爆地に」との願いは、多くの人々を動かし、核 兵器廃絶の声を世界へ広げました。国際司法裁判所が、核兵器の威 嚇と使用は実質的に国際法に違反するとの勧告的意見を示し、世界 中に核軍縮への期待が高まり、核兵器廃絶の具体的提言が相次ぎま した。ところがこの五月、インドとパキスタンが核実験を強行した のです。わたしたちの心はさらに傷つき、痛みました。そして、核 軍縮の努力を怠り、核兵器独占体制を正当化し、核抑止政策を保持 しようとする核保有五カ国の姿勢にも、強い怒りを覚えずにはいら れません。

 核兵器拡散が現実のものとなり、世界はまたも核兵器開発競争の 危険に直面しています。わたしたちは、今こそ核兵器全面禁止条約 の早期締結を強く求めます。核保有国を含む世界の指導者は、核兵 器の開発、実験、製造、配備、使用を禁止し、現在保有するすべて の核兵器を解体し廃棄することを、直ちに宣言してください。そし て、そのための条約締結の交渉を始めるべきです。二十一世紀を核 兵器のない時代とするため、二十世紀中に核兵器廃絶への道筋をつ けること、これが、わたしたちの願いです。

 日本政府に求めます。非核三原則を法制化し、北東アジア地域の 非核地帯化実現に努力して、「核の傘」に頼らない真の安全保障を 追求してください。被爆国として被爆の実相と核兵器の脅威を世界 に伝え、核兵器廃絶のために主導的な役割を果たしてください。年 々高齢化する被爆者の援護の充実に努めてください。アジア・太平 洋諸国への侵略と加害の歴史を直視し、その反省の上に立って、ア ジア諸国と歴史認識について率直に話し合い、信頼と相互理解に基 づく新しい友好関係を一日も早く築いてください。

 若い人たちに求めます。今年は世界人権宣言五十周年です。戦争 の悲惨さと平和の大切さ、命の尊さを考え、学校や家庭で話し合っ てください。飢餓、貧困、難民、人権抑圧、環境破壊など、平和を 脅かす問題を、自分の問題としてとらえてください。その解決のた めに、異なる文化、異なる価値観、そして他の人との違いを認め合 い、自分にできることから勇気をもって行動してください。

 わたしたちは、本年十一月の国連軍縮長崎会議および来るべき第 四回国連軍縮特別総会が、核兵器廃絶への大きな一歩となるよう努 力します。

 被爆五十三周年にあたり、原爆で亡くなられた方々のごめい福を 心からお祈り致しますとともに、ここに長崎市民の名において、核 兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けてさらに努力することを、国 の内外に宣言します。

 一九九八年(平成十年)八月九日  
長崎市長 伊藤一長

広島市『平和宣言』 1998年


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