中国新聞社

廃絶可能 わが国が証明(4)

'98/8/28

8カ国で共同声明を発信

南アフリカ共和国
クリッシュ・マカドゥジ
大使
 ―南アフリカはいったん核兵器を開発し、後に廃棄した。なぜそんな経過をたどったのですか。

 一九四八年から南アフリカは世界で唯一、合法的にアパルトヘイト(人種隔離)、差別、白人支配を制度化してきた。その前政権と闘ってきた私たちを支持してくれた他のアフリカ諸国を威嚇するため、当時の白人政権は核を開発した。そして彼らは、黒人政権に核を渡したくなかったから、放棄したのだ。

 国民の生活に目を

 ―現在の核政策は。

 私たちも、人類を破滅に追いやるものと、一切かかわりたくない。世界の核兵器を全廃する。今年六月、南アなど八カ国は「核のない世界へ」との共同声明を世界に発信した。一部引用したい。「唯一完全な安全保障とは、核を廃絶してしまうこと。そして二度と生産されないことだ」。

 ―核保有に代わる安全保障策は。

 核開発は軍拡をあおり、印パの核実験競争のように地域を不安定にする。本来の安全保障とは、国民が貧困から救われ、楽しく暮らせ、民主主義の社会をつくることではないだろうか。

 地球守るのが務め

 ―核保有国は「核抑止」を主張します。

 自分たちだけ核を持っていいという考えを、何とかなくさなければならない。そのために私たちは、すべての国が八カ国共同声明に賛同するよう呼びかける。核兵器の使用は破滅だ。地球を守ることが、私たちの務めではないか。

 ―日本の非核政策をどう思いますか。

 確かに、非核三原則をうたいながら、(米国の)核の傘の下にいる。だが、日本に主体性がないとは思わない。こちらに赴任して四カ月の間、多岐にわたる平和活動を見た。日本人が平和をとても大切にしていることを痛感した。ヒロシマ、ナガサキは今後も、核が人類に何をもたらすかを世界に伝えてほしい。

 ―南アの経験は核兵器廃絶の先例になりますか。

 新国家建設の際、私たちは、それまでないがしろにされてきた人々の教育や住居を保障することが最優先だと考えた。そうした努力で、よりよい国を実現することが、他国を説得できる前例になると信じる。核兵器を放棄して分かったことがある。私たちは何も失わなかった、ということだ。核開発ではなく、国民に目を向けなければならない。

 なくせるのも人間

 ―そうした信念を世界は共有できるでしょうか。

 人間の本能は破壊だ。平和より、戦争の建築家になりたがる。だから問題は、私たち一人ひとりの認識にある。国家対国家だけでなく、人間対人間の関係で核兵器廃絶の問題をとらえ、行動していきたい。核兵器は人間がつくった。なくしていくのも人間だ。私たちがそれが可能なことを証明している。

東京支社・江種則貴

 <寸言>

言葉に重い歴史と説得力

 アパルトヘイトに耐え、自由を勝ち取った現政権が、国民本位の政治に力を注ぐ。極めて自然な成り行きのなかで、非核の政策を選び、実行している。核兵器廃絶を国家や国際政治の論理だけでなく、人間のありようから説く大使の言葉には、重い歴史と説得力を感じた。南アは九三年、当時のデクラーク大統領が「八九年末までに原爆を六個製造し、九〇年に廃棄した」と明らかにした。現政権の誕生は九四年である。



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