近接国と非核の道探る(3)
'98/8/27
信頼醸成努力が不可欠
―インド、パキスタンの核実験は、自国でどう受け止められましたか。
カザフスタン
チェレウハン・カブドゥラフマノフ大使わが国はセミパラチンスクという旧ソ連の核実験場を抱え、日本と同様、核の脅威も体験しているだけに、国民はこぞって反対の声をあげた。外務省から印パ両政府に抗議し、私からも両国の駐日大使に抗議文を出した。両国は即刻、核拡散防止条約(NPT)に加盟するべきだ。
日本の援助に期待
―核実験による悲劇は今も続いているようですね。
旧ソ連は第二次大戦後の四十年間にわたり、セミパラチンスクで四百五十九回の核実験を行った。うち百十三回は大気中の実験だった。実験の規模が大きいうえ、旧ソ連時代にデータが秘密にされていたため、被害の全体像は、いまだに判明していない。実験による放射線障害の後遺症に苦しむ人も多く、日本の援助をこれからも期待したい。
核兵器すべて解体
―一九九一年の独立の時、非核を選択し、旧ソ連の核を放棄した背景は。
われわれは核の犠牲者だ。安全保障上、核を持つ方が有利という声もあったが、政府、議会の大多数は非核を支持した。独立前から核実験への反対運動も起きていた。国内にあった千二百十六個の核弾頭やミサイル発射装置は、ロシア、米国の協力で九六年までにすべて解体、撤去した。併せて、ジュネーブ軍縮会議などで核の悲惨を訴え続けている。
保有国の軍縮必要
―カザフは同じ中央アジアの四カ国(ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン)と非核地帯の設置を検討していますね。
五カ国で一方的に非核宣言をするだけでなく、ロシア、中国という隣接する核大国の同意を得なければ実効性はない。国境を接する国々との信頼醸成にも努める必要がある。同時にロシア、米国が戦略兵器削減交渉を進めるなど核保有国の軍縮努力も不可欠だ。印パの核実験は非核地帯構想にマイナスの影響をもたらしかねないが、われわれの選択は後戻りしない。ぜひ構想を実現させたい。
―非核地帯構想は、大国の核抑止力に頼らない安全保障の道ですね。
カザフは独立の時、ロシアとの二国間の同盟関係でなく、核保有五カ国すべてと集団的な安全保障関係を結んだ。国の安全は二国間だけでなく、広い地域、世界的視野で考えるべきだ。
―日本は米国の「核の傘」に頼る安全保障政策を取り続けています。
日本は平和憲法と非核三原則を持っているし、核兵器の悲劇を最もよく知っている国だ。米国との関係については答えにくいが、ロシアとの北方領土問題などの交渉が一層進展し、安全保障上のリスクが小さくなることを望んでいる。
(東京支社・高本孝)
<寸言> 抑止に頼らぬ姿勢に注目
核実験がもたらしたおびただしいヒバクシャを抱える国にとって、独立時の非核の選択は当然だったかもしれない。地政学的にも歴史的にもロシアと密接な関係にありながら、二国間同盟による核抑止力を選択しなかった点は注目に値する。「核に対する姿勢は日本国民と同じ」。大使は繰り返しそう述べたが、非核の哲学の中身は、米国の「核の傘」に頼る日本のそれとは似て非なるものだ。
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