最小限の保有なお必要(2)
'98/8/26
抑止力持ちつつ削減へ
―英国は先月、核戦力の削減を発表しましたね。
英 国
デービッド・ライト大使労働党政権が各省庁に予算の見直しを求め、国防予算を検討するなかで今回の決断になった。核弾頭を二百以下にする。これは東西冷戦の時代に比べ、七〇%の削減である。プルトニウム、ウランの蓄積量も公開した。こうした透明性拡大に取り組む意義を理解してほしい。
全廃 あくまで目標
―全廃ではなく「最小限の抑止力」を持つ考えに変わりはないのですか。
変わらない。目標は全面廃絶だが、一国だけでなく、世界がバランスを取りながら削減しなくてはならない。英国は核拡散防止条約(NPT)と包括的核実験禁止条約(CTBT)を忠実に実行してきた。核技術や核物質の拡散防止にも努力している。これらの立場や政策は、国際社会に向け、核兵器廃絶を訴える準備はできているということだ。
―廃絶を訴える機が熟していないということですか。
英国や北大西洋条約機構(NATO)同盟国が危機を感じることはまだある。不安を取り除くためにも最小限の核保有は必要だ。
拡散は非常に残念
―欧州連合(EU)への統合が進んでいます。その取り組みのなかでも一国の核は必要なのですか。
EUにはまだ、きちんと定義付けられた共通の安全保障政策はない。また、英国の国防政策は、NATOの枠組みのなかで考えられてきた。EUとは少し、性格が異なる。
―インド、パキスタンの核実験をどう受け止めましたか。
もちろん歓迎はしない。地域の緊張を高めた。核の拡散は非常に残念だ。
―かつての宗主国として、印パ対立の火種であるカシミール問題で仲裁、調停役を果たす考えは。
両国民の感情を刺激し、非常にこみいった問題だ。多くの生命が失われていることに心を痛め、今なお続く不安定な状況を心配している。だが、この問題の解決は両国の考え次第だ。
軍縮に最善尽くす
―そのインドなどは核保有国の軍縮努力が足りないと主張しています。英国が先頭になって他の保有国に軍縮を促すべきでは。
核保有国はそれぞれ歴史的背景が異なることを分かってほしい。英国は、今後も核軍縮のプロセスが早く進むよう、責任を持ち、対話を進める。兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉にも中心的役割を果たす。ベストを尽くすことが私たちの義務だ。
―核兵器廃絶に向け、そのベストを尽くす考えはありませんか。
核保有により、これまでの安定が維持できた。むろん削減は進める。相互バランスにより、核軍縮をいっそう確かなものにしたい。
(東京支社・江種則貴)
<寸言> 「廃絶訴えの準備」に期待
英国の核は、旧ソ連に向いていたとされる。ならば今こそ、きっぱり核保有から手を引けるのではないか。そう思い、廃絶への考えを何度も問うた。そのたびに返ってきた言葉は「相互バランス」。抑止力を否定しない姿勢はかたくなだ。ただ、バランスという言葉は「絶対」を意味しない。国際政治の力学などで変化する可能性を示す。「廃絶を訴える準備はできている」の言葉をかみしめたい。
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