国際司法裁の「違法勧告」どう生かす(4)
'98/6/16
▽非核条約へNGO連帯
インド、パキスタンの核実験によって核兵器廃絶運動がふりだしに戻った、という悲観論があるが、むしろ前進へのバネにするべきだ。五大国に核兵器の独占を許す核不拡散条約(NPT)の矛盾が露呈し、保有国の軍縮義務を一層明らかにしたのだから。
日本反核法律家協会事務局長
池田 真規氏いけだ・まさのり 66年弁護士登録。東京弁護士会所属。自衛隊百里基地訴訟、湾岸戦争の国費支出訴訟などを担当。日本被団協中央相談所理事。94年から現職。69歳。 自衛論 無益さ証明
核兵器使用が国際法に違反するかどうかを審理した国際司法裁判所(ICJ)も、一九九六年の「勧告的意見」で、核軍縮交渉の義務を明言し、暗に保有国の怠慢を非難している。
ただ、核兵器使用を「一般的に違法」とする一方、国家の存亡に関わる極限状態での自衛的な核兵器使用についてはその判断を避けた。印パはお互いの核兵器が国の存亡に関わると主張している。現実に「極限状態」なので、核兵器を使っても国際法違反ではないと、両国は言いかねない。
しかし、本当に核攻撃をし合えば両国とも滅亡してしまう。つまり、印パの核実験は核兵器による抑止論、自衛論の無益さを現実に証明したとも言える。
市民運動が原動力
ICJの裁判官の一人は勧告後に言っている。「他の国家や人類を滅亡に導いてまで守るべき一国の利益はない。だから核軍縮を促す政治的な警告も、あえて意見に盛り込んだ」。勧告的意見は、核兵器で国益を守る論理の破綻を指摘しているわけだ。
被爆者の間では「極限の自衛であっても核兵器使用はまかりならない」との反発もあったが、勧告的意見が核兵器廃絶の理念を明確にしたのは確か。もともと、東京地裁が六三年に示したように、核兵器使用が国際人道法に照らして違法なのは明らかだ。
市民がICJを動かした成果も、あらためて評価したい。核兵器問題をICJに持ち込んだ原動力は、法律家や医師の国際NGO(非政府組織)による国連ロビー活動だった。日本でも市民の署名運動などが盛り上がり、勧告的意見を引き出すのを後押しした。
廃絶への道筋示す
国際反核法律家協会が中心になって昨年起草した「モデル核兵器条約案」は、十五年の期限を切って核兵器を段階的に削減、廃絶する道筋を示している。核兵器の新たな開発、保有、移譲を禁じ、同時に廃棄の手続きや検証制度を細かに定めた画期的内容だ。ICJで発揮したエネルギーを駆使し、条約実現に向けてNGOの連帯を強めたい。さらに、日本では北東アジア非核条約の実現を目指し、国民的討論を進める必要がある。
来年五月、オランダで開かれるハーグ平和アピール市民運動会議は「二十世紀は原爆投下など大量殺りくが行われた最悪の世紀だったが、悪しき奴隷制度や植民地主義を葬った世紀でもあった」とし、人類の次の目標に核兵器廃絶を掲げている。会議には各国の法律家も参加する。ICJの勧告的意見を二十世紀のNGO活動の成果とし、人権を守る立ち場から戦争と核兵器をなくす運動を広げたい。
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