中国新聞社

被爆国のNGO、役割は何か(3)

'98/6/14

▽体験通じ残虐さ訴える

IPPNW副会長
横路 謙次郎氏
よころ・けんじろう 広島大原爆放射能医学研究所長、放射線影響研究所顧問研究員などを歴任。広島大名誉教授。95年から現職。著書に「発癌 理論と実際」など。71歳。
 核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の代表として五月下旬、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に医薬品を届けて帰国した。人道援助を続けることが、困窮状態を和らげ、閉鎖的な国をオープンにし、相互理解や信頼関係を醸成すると信じる。

 日本と北朝鮮間だけでなく、多国間で信頼関係を築ければ、ひいては朝鮮半島の緊張緩和や北東アジアの非核兵器地帯化につながる。医師は政治体制や国境を超えるべきで、医師の非政府組織(NGO)が先頭に立つ意義は大きい。

 経済制裁には疑問

 現時点では、核実験をしたインドとパキスタンに、緊急の医療援助が必要な北朝鮮と同じ方法が当てはまるとは思えない。かといって、米国や日本が打ち出している経済制裁は疑問だ。

 インドとパキスタンには領土や宗教の根深い対立がある。それを十分に理解したうえでの政策といえるだろうか。経済制裁は一定の効果があっても、宗教に根ざした感情は非常に根強く、両国の政策転換につながるとは到底思えない。

 では、どうすればいいか。ヒロシマ、ナガサキが市民レベルでできるのは、核兵器の残虐さ、核戦争が世界の終末を引き起こすことを地道に伝えるしかないだろう。普通の爆弾と違い、生き残った被爆者も放射線の脅威に一生さらされていることを、体験を通じて届ける取り組みは欠かせない。

 「ICBL」が好例

 そのうえで、NGOが原点の運動と協力すれば、世界の政策を変えさせる可能性がある。対人地雷全面禁止条約を実現させた「地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」が好例だ。IPPNWも参加し、二〇〇〇年までに核兵器廃絶への道筋を求める運動「アボリション2000」も、ICBLの成果には勇気づけられた。

 今回の核実験は、核廃絶運動に多くの影響を及ぼした。核保有五カ国の無責任さ、包括的核実験禁止条約(CTBT)や核拡散防止条約(NPT)の欠陥がはっきりし、新しい核管理・核軍縮への動きが活発になるはずだ。

 来年五月、オランダ・ハーグで第三回の「ハーグ平和アピール市民運動」が開かれる。世界のNGOが集まる大会だ。世界平和に向け、帝政ロシアが主導して十九世紀に始まった歴史ある市民運動の大会で、反核法律家協会(IALANA)やIPPNWなども参加する。核兵器廃絶は大きなテーマになるので、期待している。

 イニシアチブ望む

 IPPNWにはインド、パキスタンにも支部がある。残念ながら両支部とも理事会にはあまり参加せず、ネットワークはまだできていない。いずれにしろ、日本支部は唯一の被爆国のNGO支部として、他の国々のNGOと積極的に連携し、核兵器廃絶へ向けてのイニシアチブをとりたい。



MenuBackNext