反核世論、再構築するには(2)
'98/6/13
▽商業利用も直視すべき
インドはこれまでも、核実験をするのではないかとみられた時期があった。だが、その都度、実験を許さない国際世論が働いてきた。今回の実験は、インド内外の政治情勢が引き金であろうが、それを抑える世論が弱っているのではないか。
原子力資料情報室代表
高木 仁三郎氏たかぎ・じんざぶろう 東京都立大助教授などを経て87年から現職。市民の立場から現代科学の見直しを提唱している。原子核化学・科学技術論専攻。著書に「核時代を生きる」など。59歳。 東西冷戦は終わった。包括的核実験禁止条約(CTBT)も結ばれた。私たちは、もう核実験はないだろうという「安心感」を覚えていたと思う。
条約で抑止できぬ
朝鮮戦争、キューバ危機、ベトナム戦争と、これまで核兵器が使われるかもしれない状況を押しとどめたのは、背景に世論の力があり、ヒロシマ、ナガサキからのメッセージがあったからだ。今回の実験で核拡散防止条約(NPT)体制が崩壊したなどと政治の場では騒いでいるが、核拡散を本当の意味で抑えているのは条約ではない。
今、「核は嫌だ」との切実感がない。それが怖い。いつだって核戦争は起き、他の国が核武装するかもしれない。被爆国日本から相当強烈なメッセージを発信しなければならない。
もう一つ、今回の核実験に思うのは、核の商業利用を続ける限り、核技術の拡散を止めようがないのではないか、ということだ。
NPT体制そのものも、軍事面への核の技術移転を禁止する代償として、いわゆる平和利用の核は積極的に推進しようというシステムだ。しかし、核物質を扱う限り、だれもが核兵器を造り、使える技術を持つことにつながりかねない。
インド、パキスタンをはじめ核兵器開発の疑惑を持たれている国はすべて、基本的には「核クラブ」の国から原子力利用の技術を導入している。NPTの順守を叫ぶ、同じ国の人が核の商業技術を売り込んでいる。
核物質を燃料にするという巨大技術そのものが、本当に地球の平和にとっていいことか。社会そのものを非核化、非武装化する取り組みが必要だ。なるべく平和的に技術を使い、平和の文化を築く、といった努力をしないといけない。
科学者も問われる
科学者のあり方も問われている。米国では、核開発拠点の研究所で今もなお、臨界前核実験のようなCTBTの対象にならない技術開発を進めている。軍拡を提案し推進している科学者がいて、彼らが政治や国家予算を動かす場面もしばしばある。そうした科学者を生き残らせる構造を、どうやったら変えられるか。
原点からの声強く
やはり、世論の力だと思う。その原点であるヒロシマ、ナガサキこそ、もっと強烈なメッセージを発信してほしい。商業利用の問題も避けないでほしい。印パで反核を主張する大勢の科学者と連帯してほしい。私たちも、核の文明を問い直す問題提起を続けたい。今、非核世論の形成は本当にしんどいと思う。だが、そこを抜きにして核兵器廃絶への近道はない。
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