中国新聞社

今後の核拡散防止体制は(4)

'98/6/5

▽NPTの枠組み堅持を

岡山大教授
浅田 正彦氏
あさだ・まさひこ 京都大法学部助手などを経て96年から現職。専門は国際法。91―93年外務省専門調査員として、ジュネーブの軍縮会議日本政府代表部の法律顧問。40歳。
 今回のインドとパキスタンの核実験で、核拡散防止条約(NPT)体制がほころんでいるようにみえる。しかしNPT体制を壊すなと、私は強調したい。

 世界が変わったことを無視している考えとの批判があるが、核保有国が増えるのは危険だ。そのことをだれも否定できない。印パを核保有国として認めたら、歯止めがきかなくなる。絶対に認めてはいけない。

 不平等をやむを得ぬ
 NPTは、五つの保有国はそのままで、新しい国には核保有を認めていない。不平等と言えば不平等だ。

 しかし平等にすれば印パのような国が増えてくる。核実験して、どんどん保有が認められるようになれば核兵器拡散防止の努力をやめることに等しくなる。核保有国を限定する意味では不平等はやむを得ない。

 冷戦後、世界は、核軍縮が進まないことより、核拡散の方が怖くなった。五つの保有国以外、例えば自分の隣国が、核兵器を持つのは恐ろしいとの考えだ。

 核兵器を銃に例えると分かりやすい。だれでも銃を持てる米国型社会と、一部の者、例えば警察だけが持てる日本型社会と、どっちが良いか選択の問題だ。国際社会と国内社会を同列に比較できないが、私は日本型が良いと思う。米国型だと、おかしな人間が銃を持つ可能性がある。国際社会では、オウム真理教のような人がいないとは言えない。

 重い保有国の責任

 だから、差別的、不平等であってもNPT体制は堅持するべきだ。その際、大事なのは「警察官」、つまり保有国の態度が非常に重要になる。核軍縮に努力するなどで、信頼を得られるかどうかにかかっている。

 保有国の核軍縮努力が足りなければ、どうなるか、今回はっきりした。保有国の核軍縮努力が一層求められる。その意味で、アメリカやロシアが、包括的核実験禁止条約(CTBT)には違反しない臨界実験を繰り返したことに、今回の核実験を誘発した一因があると思う。インドは「核保有国が自分たちの都合のよい条約を作って乱用している」と、NPTの不平等部分をクローズアップして受け取ったとも言える。

 NPTでは、印パは非保有国になる。受け皿を準備して、両国が考えを変えてNPT体制に入ってくるまで待つしかない。

 そんなことは、あり得ないと言われるかもしれないが、世界には、核兵器を放棄した南アフリカや、相互対立を乗り越えて、ラテンアメリカ地域の非核条約を結んだブラジルとアルゼンチンのような例がある。

 和解こそ確実な道

 遠いようで確実な道は、印パの政治的な和解しかない。そうすることで、両国がNPT体制に入るようにするしかない。

 実行は本当に難しい。しかし、それ以外の方法は危険だ。両国を特別扱いすると、他国に核が拡散する。

 いずれにせよ、NPT体制にとって今が正念場。ここで枠組みを変えることになると、核拡散につながりかねない。



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