核戦争の危険性は(5)
'98/6/6
▽実戦配備には1、2年
インドとパキスタンがすぐにも核戦争に突入するとの見方もあるが、その可能性は低い。むしろ両国の核実験で、ごく短期的には均衡状態を取り戻したとみる。
国際政治・軍事アナリスト
小川 和久氏おがわ・かずひさ 雑誌記者などを経て、1984年、軍事アナリストとして独立。現在、危機管理総合研究所所長。「原潜回廊」「ヤマトンチュの大罪−日米安保の死角を撃つ」など著書多数。52歳。 特にパキスタンは、実験しないと政権が不安定となり、カシミールの領有権をめぐる印パの緊張をエスカレートさせかねない状況にあった。実験は国民のインド対抗意識にこたえ「ガス抜き」ができたと言える。
核兵器の実戦配備までには、さまざまな技術的プロセスを踏まなければならない。最低一、二年はかかる。核抑止として機能するには、相手の手の内を知る情報システムも必要で、その構築にも時間がかかる。
イスラム諸国への核拡散の懸念も指摘されているが、これもごく短期的には心配ないだろう。確かに、核武装の意思と能力を備えた国は多い。だが、核武装に必要なもう一つの条件である「政治、経済、軍事面での国際的孤立に耐える覚悟のある国」は見当たらない。
核の傘 まず清算を
とすれば、われわれは今のうちに、何をすべきか。核拡散防止条約(NPT)体制が十分でないことは明らかになった。包括的核実験禁止条約(CTBT)も、駆け込み実験を許す装置にすぎないという側面が浮き彫りになった。
今こそ、核兵器全廃についての国際的枠組みをつくる試みを始めるべきではないか。
提案者にふさわしいのは日本だ。そのためにはまず、米国の「核の傘」の問題を精算しなければならない。在日米軍基地には、米国の核戦略の一翼を担う通信システムやコンピューターネットワークが既に組み込まれている。その米軍基地は国民の税金で維持され、自衛隊によって守られているのだ。
日本の非核政策に沿って日米安保の中身を変えなければならない。米国の核戦略に必要な施設は在日米軍基地から撤去させるなど、日本は一切、核とかかわらないことを示さなければならない。そこまでしないと、日本の非核政策は国際的に信用されない。
そのうえで、印パにNPT、CTBT体制への加盟を促す。同時に、経済制裁は強力に実行する。核をもてあそべば必ず報いがあると、はっきりさせなければならないからだ。
カギ握る対米説得
核五大国に対しては、核全廃の意思表示をさせることだ。可能性はある。米国は「平和の旗手」として振る舞いたがる国で、通常戦力は圧倒的優位だ。米国が旗を振れば、核のコストが重荷になってきた英国やフランスは同調する。ロシアも核をもてあまし、中国も核保有をやめるだろう。
対米説得がカギだ。日本は、まず日米安保の非核化を迫り、日米同盟の解消も辞さない覚悟で核廃絶を求めればいい。できないと言われて引っ込むようでは、非核政策を言う立場にない。
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