中国新聞
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「テロ・報復戦争とヒロシマの役割」座談会 2002/01/01

平和への道 いかに行動すべきか

 ― 米国に対してヒロシマはどうアプローチすればいいのでしょ うか。

 菱木 ヒロシマの思想は原爆後の普遍的な平和な世界をつくるた めの原点。新しい世界を目指し、楽観的に行動していくことが有効 だ。対人地雷禁止条約を作ったのはグローバリズムのプラス面を生 かしてインターネットなどで結び付いた人たちだ。そういう意味で 被爆地からヒロシマの情報をいくらでも発信できる。

 中村 私は広島市民の思いを代弁して、広島市長名で米紙に意見 広告を出すべきだと思った。実際、広島の広告業者が中心となって 市に働きかけたが、予算措置が取れないとかで実現しなかった。オ ノ・ヨーコが個人的に出した意見広告のインパクトが大きかっただ けに、残念でならない。

 ▼今に通じる体験

 井上 平和教育でも人権教育でもだんだんマンネリ化してしま う。外国でヒロシマの体験を発表しても、過去のことだと言われて しまう。現在の状況と結び付けてヒロシマの体験を伝えるよう工夫 していかなければいけない。

 ― あらためてヒロシマの役割を考えてみたいと思います。

 中村 ヒロシマで平和と祈りのメッセージを伝えたいという衝動 がアーティストの間にあるのを聞いて、シンポジウムやライブなど を展開する「和プロジェクト」を昨年末広島市と東京で実現した。 古里を離れて、なぜアーティストが広島にこうした衝動を求めてい るのかが分かった。ただ歌うだけ、コンサートを開くだけというの でなく、広島でやることに意味がある。

 ▼鎮魂の場欲しい

 福井 原爆資料館の入館者がここ十年ほどで、約三分の一減った が、半面、外国人の入館者は増えている。二〇〇〇年が最高で九万 五千人くらい。その多くが若い人、特に米国人が多い。見学を終え た外国人はショックを受けると同時に、いろんな感想や疑問を持つ だろう。自分がどうすべきか、また、広島の若者がどういう考えを 持っているのか知りたがると思う。

 広島市内の学生や被爆者団体などを中心に、疑問に答えたり、ま た逆にこちらの思いを伝えてもらうため、原爆資料館を見学に訪れ る人と対話ができるような場が出来ると、互いに有意義だ。

 菱木 日本や海外から人々が集まり、人材養成、研究や活動がで きるインフラを整えることが必要。鎮魂のためのステージを設けた り、新しい時代に期待を託すような場を提供したりする。そして音 楽や言葉で人々が結びつきながら、人をいとおしむ気持ちで被爆地 に集まる。そうした機会をつくることで、反核平和へのヒロシマの 願いが世界にアピールできる。

 井上 こんな事件があったにもかかわらず、無関心な人はいる。 でも、この事件があったことで、核兵器が使われたのは過去のこ と、絶対に使われることはないと思っていたのが、使われるんじゃ ないかという思いをみんなが共有した。脅威を身近に感じること で、核兵器廃絶のメッセージが届きやすくなった。この悲劇が教訓 となって、若者を含め多くの人に受け入れられるチャンスだと思 う。

 ▼テロ原因究明を

 森滝 ヒロシマが果たすべき役割はたくさんある。日本がアフガ ンに参戦状態にあるのをやめさせ、復興に貢献しなければならな い。テロの犠牲者の遺族の気持ちを分かち合えるのもヒロシマだと 思う。可能なら被爆者がニューヨークの現場に立ち、気持ちを分か ち合えないか。そういう活動を広げるため、市がもっと市民運動を 援助するなどして協力し、平和行政をよりオープンに進めてほし い。

 福井 平和研究所の一つの目的として、どうして戦争やテロが起 こるのかの研究をしなくてはいけない。なぜあのようなテロ行為に 出たかの原因を突き止め、原因を取り除くことができればと思う。





■ネットや歌
 広がる発信

 「ともに遺族」
心つなげ