中国新聞
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「テロ・報復戦争とヒロシマの役割」座談会 2002/01/01

寄稿 国連アジア太平洋平和軍縮センター所長 石栗 勉

  昨年九月十一日、米国を襲った同時中枢テロは全世界に大きな衝 撃と動揺をもたらした。結果的には無事脱出できたものの、私の娘 が世界貿易センタービルでテロの脅威に遭遇したため、わが家の問 題でもあった。民間機の乗客約四百人を巻き添えにし、約八十カ国 に及ぶ三千二百人余の人々の命を奪った酷薄非道な今回のテロは、 いかなる理由があろうとも断じて許すことはできない。

 同日、国連は安全保障理事会議長声明を発表し@この悲劇は人類 への挑戦Aテロ行為は正当性を欠くB実行犯や関与した組織は法に 照らして処罰すべき―との基本認識を明らかにした。

 また、短期間に国連総会決議一本、安保理決議二本を採択し、各 国による具体的措置を示した。

 まず、「テロ行為は国際平和と安全に対する脅威である」との共 通認識が成立した。次に、安保理決議によって、テロ行為に効果的 に対処するため、たとえば次のような具体的措置を求めた。

 @テロ組織の資産凍結Aテロ集団の移動、武器・爆発物の移転と 聖域提供の禁止B既存の十二の反テロ条約、議定書の署名、批准C 国境警備などの強化についての情報交換Dテロ行為が麻薬取引、資 金洗浄、武器や大量破壊兵器関連物質や技術移転を相互に関連して いるため、それへの対応として各国・地域、国際間の調整を続け る。

 国連総会の議論では、これらに加え@反テロ戦略検討国際会議の 開催A国連の中心的役割の確認Bテロ実行犯を裁く機関Cテロ行為 は文明の衝突ではないDテロに関する世論喚起Eテロ行為の背景考 察―などの見解が示された。これらの措置の実施や構想の推進は、 世界各国の共通責務となった。わが国とて例外ではない。

 米中枢同時テロは国家を前提とする安全から、無国籍テロ集団対 国家という、これまでと異なる安全上の図式を突きつけた。

 このような国際関係の根本的変質は、「国際的国家連合」ともい うべき史上まれな結束をもたらした。反テロ行動のみならず、軍縮 を含む他分野でも主要国間の関係改善を期待したい。

 今後は、テロ問題が国際社会の主要関心事となるだろう。他方、 それがゆえに、ヒロシマ、ナガサキが国際社会から無視されること があってはならない。架空の話であったテロ集団による核兵器や大 量破壊兵器の使用、または使用の威嚇があすにもありうるのだ。

 こうした危機に際し、被爆地の果たす役割は重要だ。ミニ原爆と も言われる今回の惨禍に対し、ヒロシマはテロ行為の断固たる非難 に加え、米国人を含む犠牲者に対し哀悼の意を表した。筆舌に尽く しがたい惨禍を経験したヒロシマの気持ちの表れであるがゆえに、 その意義は大きい。

 核軍縮、核廃絶への不断の提唱がさらに重要となる。核軍縮はつ まるところ、核兵器国を追い込んでいくことだ。五つの核兵器国が 結束している今こそ好機である。米国の単独主義の修正も期待した い。ジュネーブ軍縮会議訪問、在京大使館や外務省との常設協議は いかがであろうか。

 被爆の実相のさらなる周知も重要だ。既存の原爆展の継続開催に 加え、在京外国プレス、わが国のマスコミ、軍縮に関心を持つ俳優 などをヒロシマに招いてはどうだろう。彼らは被爆の実相の伝道者 となろう。

 若者の参加も欠かせない。昨今の国連軍縮会議では、参加者と平 和・軍縮を学んだ若者との間で有意義な意見交換が行われた。関心 を持つ若者を育てることは重要な投資だ。

 より目に見えるヒロシマの行動が大切だ。今年の核拡散防止条約 (NPT)再検討会議準備委員化への参加、「軍縮不拡散教育」の 国連研究への見解提出、合意がなく宙に浮いている「核の危機減少 国際会議」の広島開催もいいだろう。

 今回のテロは、回教対その他の対立ではない。テロの背景とし て、グローバリゼーションの結果生じた各種格差も指摘される。文 明間の対話、貧困撲滅、環境を話し合う場を設けてもよい。積極的 な行動を期待する。  


■核廃絶 
今こそ好機




いしぐり・つとむ

1948年新潟県出身。72年外務省入省。 在ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部一等書記官などを経て87年、 国連軍縮局入り。92年から現職。