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今こそ被爆体験生かせ 
「テロとヒロシマ」 シャーウィン教授に聞く
2002/08/03
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 広島平和研究所(福井治弘所長)が三日に、広島国際会議場(中区)で開く国際シンポジウムに出席するため広島市を訪れている米国タフツ大学歴史学教授で、核問題に詳しいマーティン・シャーウィン氏(65)に二日、昨年九月の米中枢同時テロ後の核状況や「ヒロシマの役割」などについて聞いた。氏は「世界が危険な状況にある今こそ、被爆体験に根ざした平和の訴えが貴重である」と強調した。
(編集委員・田城明)

米核政策、逆行に危機感
非核教育、世界の先頭に


- 一九六一年の初めての被爆地訪問が、原爆投下をめぐる歴史検証などその後の核問題研究と深くかかわっていると聞いています。

 四十一年前に私は五カ月間、海軍航空隊の一員として岩国基地に駐留した。その時、友人と二人で原爆資料館を見学した。被爆の惨状を示す廃虚の写真や石段に残った人影などの現物資料を目前にして、アメリカの行為や核戦争が何をもたらすかに深い思いを寄せずにはいられなかった。

 米ソが核戦争の淵(ふち)に近づいた六二年のキューバ・ミサイル危機を経験した後に除隊し、大学院へ戻ったが、おのずと核にまつわる軍事・外交問題に関心が向いた。その意味で「ヒロシマ」との出会いが、その後の私の研究テーマを決定づけたと言える。

 ▽投下 展示工夫を

- 七年ぶり、五回目の今回の広島訪問では、原爆資料館のスタッフらと展示のあり方について突っ込んだ協議をしたようですが…。

 資料館の展示をより効果的に、分かりやすく内外の見学者にどうアピールするか。これは非常に重要なことだ。広島市では二〇〇四年春までに展示内容を改善しようと計画している。その一環として私は、原爆投下決定をめぐる展示などにもっと工夫を加えるといいのではないかと提言した。

- 例えば、どのような形で?

 具体例を一つ挙げれば、広島・長崎への原爆投下を決定したトルーマン大統領がホワイトハウスの執務室で仕事をしている姿を再現して、机上に関連の歴史文書を展示する。壁に掲示するよりも、その方がはるかに注目を集めるだろう。その結果、戦争終結に原爆投下が必要ではなかったことや、日本本土上陸によって百万人のアメリカ兵の命が救われたといった見方が神話にすぎなかったことをより多くの人々が理解するに違いない。

- ところで、二〇〇一年初頭のブッシュ政権誕生後、とりわけ米中枢同時テロ後の現政権に対し紙上などで厳しい批判を展開していますね。

 そうせざるを得ない危険な状況が生まれているからだ。核政策で言えば、包括的核実験禁止条約(CTBT)からの撤退や弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の一方的破棄、先制核攻撃の見直し、小型核兵器の開発、ミサイル防衛網の構築などまるで冷戦期に戻ったような政策を取り続けている。

 ▽報復 テロを生む

 一方で「テロへの戦争」を名目に、市民の基本的人権が侵されようとしている。現政権を批判する者は、国への忠誠が足りないと「非愛国者」のレッテルをはられる。そのやり方は「反共」の名の下、多くの知識人らを弾圧した五〇年代の「マッカーシズム」に通じるものだ。

- でも、多くのアメリカ人はテロ攻撃に不安を覚え、戦争を含め厳しい対処を求めているのではないですか。

 アメリカ人が標的にされることへの不安があるのは事実だ。が、不安があるからといって、戦争に訴えるのは間違っている。テロ行為は犯罪であり、実行者や支援者は法の下で罰するのは当然のことである。

 しかし、アフガニスタンへの報復攻撃では、世界貿易センターで罪のない市民が大勢犠牲になったように、罪のない多くのアフガン市民を犠牲にしている。それは結局、問題解決よりも新たな犠牲者、テロリストを生み出すことにしかつながらない。特にブッシュ政権が取っている一国至上主義の核政策は、テロ防止対策とは無縁のものだ。

- 旧ソ連との冷戦が終わって十年余がたちますが、ロスアラモス国立研究所などの予算を含め、米国の軍事関連予算は膨張する一方です。

 ▽軍需企業に利益

 冷戦時代の四十五年間に出来上がった軍産複合体のシステムがあまりにも強大だからだ。本来は社会福祉や教育など民生向上に回すべき「平和の配当」が、軍需企業などの利益に吸い取られている。

- そのことが世界の軍縮を停滞させ、世界の平和を一層脅かしていますね。

 その通りだ。テロ事件がこうした現実を覆い隠す一端を担っている。

- 今回の国際シンポでは、平和構築における広島の新たな役割が主要なテーマになっています。

 被爆地広島の大きな役割は、核戦争が何をもたらすか、その実態を世界の人々により広く伝え続けることだ。その上で、米ロをはじめ世界の多くの政治家や軍人、軍事戦略家たちが今なお信じている核抑止論の間違いを、経済や環境破壊などあらゆる面から論破できる「平和の論理」を構築することだ。

 そのために広島大学や広島平和研究所などが協力して研究を重ね、その成果を日本や世界の大学などで若者の教育に生かしたり、学会などでアピールしていく必要がある。  

- 日本では内閣の中枢にいる政治家が非核三原則の見直し発言をするなど、戦争・被爆体験の風化が進んでいます。

 人類全体からすると、これは由々しき事態だ。日本であれ米ロなど核保有国であれ、子どもから大人まで今ほど危険な核時代に生きる意味を理解する教育が求められている時はない。広島や長崎がその機会を与える先頭に立ってほしい。危険を自覚した世界の市民一人ひとりの努力、行動が、やがて状況を大きく変えていくに違いない。






■プロフィル■
マーティン・シャーウィン氏
 1937年、ニューヨーク市生まれ。71年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で博士号(歴史)取得。プリンストン大学講師などを経て80年、タフツ大学(マサチューセッツ州)教授。第二次大戦中の米核政策を検証した「破滅への道程」(75年)で米歴史本賞受賞。

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