中国新聞

 

 
5.慰霊の朝

散歩の途中、原爆慰霊碑を参拝する市民。早朝の静けさが祈りを包む

 悲劇胸に 日課の一つ

 セミの鳴き声や、スズメのさえずりが公園を包み始める午前五時 半。原爆慰霊碑に一人、また一人と参拝に訪れる。中高年のほか、 ジョギング姿のお年寄りの姿も目立つ。慰霊碑の前でゆっくりと帽 子を取り、手を合わせる。

 国内外の観光客でにぎわう日中とは対照的な光景である。昼間の 暑さを避けて、散歩やジョギングに通い続ける高齢の被爆者。「死 体の山が続いていたあの日を思うと、ここに来ずにいられない」。 十六歳で被爆した男性はつぶやく。

 犠牲者に安らかな眠りを、核のない世界の実現を―。世界中の人 の願いを受け止め続けた慰霊碑。高層ビルの谷間から顔を出した朝 日が、石畳を金色に染め、長い影を映し出す。「今日も暑うなる ね」。空を見上げて、声を掛け合う。



MenuNextBack