悲劇胸に 日課の一つ
セミの鳴き声や、スズメのさえずりが公園を包み始める午前五時
半。原爆慰霊碑に一人、また一人と参拝に訪れる。中高年のほか、
ジョギング姿のお年寄りの姿も目立つ。慰霊碑の前でゆっくりと帽
子を取り、手を合わせる。
国内外の観光客でにぎわう日中とは対照的な光景である。昼間の
暑さを避けて、散歩やジョギングに通い続ける高齢の被爆者。「死
体の山が続いていたあの日を思うと、ここに来ずにいられない」。
十六歳で被爆した男性はつぶやく。
犠牲者に安らかな眠りを、核のない世界の実現を―。世界中の人
の願いを受け止め続けた慰霊碑。高層ビルの谷間から顔を出した朝
日が、石畳を金色に染め、長い影を映し出す。「今日も暑うなる
ね」。空を見上げて、声を掛け合う。
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