赤茶けた円蓋(えんがい)の骨組み、レンガとモルタルの壁…。
元安川左岸の原爆ドーム。見上げるいつもの姿も、真上から眺める
と、長径一〇・七メートル、短径八・八メートルのだ円が目に飛び
込む。十九世紀末のヨーロッパ建築の曲線美だ。
チェコの建築家が設計を手掛け、一九一五年に完成した。円蓋部
分は高さ二十五メートル。かつて緑色の銅板が覆い、城下町の街並
みに、大胆な風ぼうで市民の視線を集めた。
県産業奨励館と呼ばれていた五十六年前の夏、爆弾が約六百メートル上
でさく裂、姿は一変した。「見苦しい」「嫌な記憶を忘れたい」
…。市が永久保存を決めたのは被爆から二十一年後だった。
補修を繰り返し、ヒロシマの象徴として立ち続ける原爆ドーム。
世界遺産登録から五年、この夏で満八十六歳を迎える。
(写真・天畠智則、文・見田崇志)
おわり