突く「安らかに」と
公園を訪れた人々の願いが、直径十五センチ余りのヒノキの断面
に刻まれる。原爆ドームの対岸にある「平和の鐘」の撞木(しゅも
く)。「核兵器と戦争のない世界を」。ひび割れ、ささくれ…その
一つ一つが祈りの重みを物語る。
今の撞木は三代目。ドーム型の鐘堂の下で、国境のない地図など
を鋳込んだ直径約一メートルの梵鐘(ぼんしょう)がしっかりと受
け止める。
五十六年前のあの日と同じ暑い季節になり、鐘堂に足を運ぶ人が
増えた。ゴーン…。澄んだ音が夏木立に染み渡る。「安らかに。こ
の言葉しか見つかりません」。初老の夫婦が静かに手を合わせ、頭
を下げた。
市民などの寄付金で建設されて三十七年。鐘堂の周りは変わら
ず、薄桃色のハスの花が彩る。そばで高校生がお年寄りの体験談に
耳を傾けた。
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