被爆体験をもとに反戦平和を詠み続ける歌人近藤幸子さん(79)=
広島市西区己斐上=の歌集の英訳冊子が出版された。大阪の英語研
究者らが四行詩集に翻訳した。原爆をテーマにした俳句の英訳はこ
れまであったが、短歌英訳の試みは珍しい。
近藤さんは爆心から約三キロの己斐の自宅の畑で被爆。戦後、病
気に苦しみながら農作業を続け、三人の子を育て上げた。一九六〇
年から歌を詠み始め、広島の同人誌「青史」に参加。主婦として生
活の視点から原爆犠牲者への鎮魂、核への不安などをテーマにこつ
こつと歌作りを続けてきた。
今回の英訳は、大阪市内に住む近藤さんの親類を通じて作品を知
った近畿大非常勤講師生駒和子さん(60)が発案。既に出版された歌
集「閃光の丘から」(七三年)と「続・閃光の丘から」(九九年)
の中で三百六十首を選び、イギリス人の友人の協力で冊子「FRO
M THE HILL OF FLASH」(A5判百二十ページ)の自
費出版にこぎつけた。
原爆をテーマにした俳句の英訳は例があるが、三十一文字の短歌
は文意と情緒を損なわず翻訳することが難しかった。今回は伝統的
な四行詩の様式で、詩的なイメージを強調することができた。
「面はゆい気持ちもあるが、広島を訪れる海外の方に読んでほし
い」と近藤さん。三百部発行。原爆資料館売店で販売している。
≪英訳短歌に収められた2首≫
How cursed our human history
Ashura leads a funeral cortege
From Hiroshima
Ground Zero
(呪うべき人の世の歴史ヒロシマのゼロの地点に阿修羅の葬列)
Lanterns gathering
And then they part
The loneliness of this river
Upon August 6th
(灯篭の相寄り別れ流れゆく川面のさみし八月六日)
【写真説明】出版された近藤さんの英訳歌集
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