第5回世界平和連帯都市市長会議 |
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三重大助教授 児玉 克哉氏
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1959年、広島県高宮町生まれ。90年4月、三重大人文学部
講師、現在助教授。2000年7月から、国際平和研究学会・事務
局長。専門は社会学・平和学。主な著書・編著に『原爆孤児―流転
の日々』、『世紀を超えて 爆心地復元運動とヒロシマの思想』
『ヒロシマを聴く 若い世代のための被爆体験記』など。
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「人類が21世紀を生きのびるために―人類と科学技術の和解を目 指して」を基調テーマに、第五回世界平和連帯都市市長会議が開催 される。市長会議は、一九八二年に広島、長崎両市が提唱した「核 兵器廃絶に向けての都市連帯推進計画」に賛同する世界各国の都市 で構成された団体で、現在のところ世界百二カ国・地域、五百八都 市から賛同が得られている。 今回は、国外三十一カ国から七十四都市、二団体、国内四十四自 治体(一日現在)の代表の出席が予定されており、ますます活発化 していることが分かる。 国際社会における自治体の役割は大きな注目を集めている。伝統 的な国際政治理論によれば、国際外交の担い手(アクター)は国家 である。しかし、近年になって核兵器の問題への対処など国家を超 えたアプローチが必要になる一方で、国家よりも小さな地域単位が 独立性・自立性を得ていく傾向が見受けられる。 つまり、グローバリゼーションとローカリゼーションが同時に起 こっているのである。この大きな流れの中で、自治体が国際的諸問 題に取り組む必要性が高まり、国際外交の新しい担い手として脚光 を浴びている。 自治体や地域社会の持つ人材やノウハウが、地球規模の諸問題の 解決のために求められるようになってきた。市長会議は国家の枠を 超えて、自治体が独自性を持って国際的問題に取り組むパイオニア 的な存在である。 おのおのの国家が狭い意味での国益を追求することは、決して世 界の平和を保証するものではない。自治体、そして自治体の構成員 である住民が世界的な連帯をしながら、人間益を追求することが平 和への道と言えるだろう。自治体の連帯は、国家が国益を追求する ことによって閉そくしてしまった核時代に、新たな展望を切り開く 起爆剤である。 今回の会議においては、核や戦争の問題だけでなく、暴力や貧困 の問題にも視野を広げていることは注目される。 国家が国益の追求を前提に「平和」を考える時、国家の防衛、つ まりは軍事力の増加に関心が向く。しかし、自治体はそこに暮らし ている住民の人権の擁護を前提として平和の問題にアプローチして いくのである。 つまり、自治体のアプローチは、暴力の根源的な本質に迫り、貧 困や差別などの社会的な問題の解決を展望する。今回の会議が、視 野を広げて平和の問題に取り組むことは、国家を軸としたアプロー チへの対立軸を築く上においても大きな意味があるだろう。 平和研究者として知られるケネス・ボールディング博士は、「世 界の都市よ、連帯せよ!スラム、貧困、軍事浪費のほかには何も失 うものはないのだから」と述べた。 広島・長崎の悲劇を繰り返さないために、世界の都市の連帯を図 る市長会議には、大きな潜在力がある。その潜在力を期待通りに生 かせるかどうか、正念場だ。 |