中国新聞



2001/8/08

上海国際戦略研究所教授
夏 立平(シャー・リー・ピン)さん(45)
■TMD配備に強い懸念
アジア非核 信頼醸成で
<プロフィル> 中国福建省福州市生まれ。中国人民解放軍を経 て、1989年から96年まで国防大学で助教授として勤務。同年 8月から現職。専門はアジア・太平洋地域の軍備管理と安全保障。
 
  ―「原爆の日」を挟んでの初めての「ヒロシマ体験」はいかかで したか。

 広島、長崎の被爆体験には以前から同情的な思いを抱いていた。 でも実際に被爆地を訪れ、原爆資料館を見学したり平和記念式典に 参列することで、核戦争の本当の恐怖や、核廃絶と平和を希求する 広島市民らの願いを身近に実感できた。小泉首相も式典に参列して おり、ヒロシマの訴えをくんだ外交を展開してほしいと思った。

 ▼抑止力を弱体化

 ―原水爆禁止世界大会をはじめ、広島でのさまざまな平和集会な どで米国が進める米本土ミサイル防衛(NMD)や、日米が共同で 研究に当たる戦域ミサイル防衛(TMD)が大きな焦点になりまし た。中国から見ての問題点は?

 NMDについて言えば、中国の核抑止能力を弱めることだ。その 点ではロシアも同じであり、両国とも強く反対している。米国は朝 鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)やイラクなどの国に対して配備す るのだと言っているが、それを信じる者はいない。北東アジア地域 へのTMDの配備は、中国にとってより強い懸念材料となってい る。

 ―台湾問題が絡むからですか。

 その通りだ。海上などへのTMD配備で日・米・台湾の軍事通信 システムや指揮系統が統合される可能性がある。さらにTMDその ものの台湾への配備や技術移転も考えられる。戦闘機など米国から 台湾に売却されている高性能の兵器と併せ、台湾独立を志向する分 離主義者に間違ったシグナルを送ることになる。

 ―日本政府は北朝鮮の核兵器、ミサイル開発に備えてTMDの技 術的研究を進めるとの立場です。

 一定の理解はできる。が、日本は既に軍事大国であり、TMDの 開発は台湾との関連、さらには最近の教科書問題や小泉首相の靖国 神社参拝問題とも絡んで中国に強い疑念を与えている。

 よりよい解決法は日本、米国、韓国、そして中国が協力して北朝 鮮に核開発やミサイル開発をしないように働きかけ、そのための環 境をつくることだ。韓国と北朝鮮は九一年に朝鮮半島の非核化共同 宣言をしており、それを強化することが地域の安定に一番貢献す る。

 ―北東アジアの非核地帯構想が持ち上がっています。可能性はあ りますか。

 現在の政治軍事状況の中で、北東アジア全体を一気に非核地帯に するのは無理だ。しかし既に非核地帯となっているモンゴル、非核 政策を取る日本、朝鮮半島、さらには中国の一部などを加えて検討 すれば可能性はあると思う。大切なのは関係国間の信頼を醸成する ことだ。

 ▼米国の動き見る

 ―核保有五カ国のうち、英・仏・ロ三カ国は包括的核実験禁止条 約(CTBT)に批准しています。中国も批准し、核政策の透明性 を高めれば、近隣諸国だけでなく世界中の世論が支持し、気ままな 米国への強力なプレッシャーになると思うのですが…。

 中国もCTBTへの批准を真剣に検討してきた。だが、NMDや TMD配備に加え、CTBTから米国が離脱しようかという状況で は困難だ。様子を見るしかない。中国の核戦力は米ロと比べ非常に 小規模だ。核による先制攻撃をしないこと、非核保有国に対し核攻 撃をしないことも約束している。中国が自国の安全保障にもっと確 信が持てれば透明性を高めることができる。不透明だと批判する が、今はそれも抑止政策の一部だというしかない。

21世紀 岐路に立つ軍縮