中国新聞社

2000・2・19

被曝と人間第2部臨界事故の土壌[9]        
インタビューを終えて

 

 

    危険性の把握 冷静な目で

 

「安全文化」浸透がカギ

 ■立場の異なる8人

 原子力史上で国内最悪の被害を出した東海村臨界事故の土壌に迫ろうと、八人にインタビューした。「石炭や石油など、他のエネルギーと比較して、原子力の必要性を冷静に考えてほしい」と語った日本原子力産業会議副会長の森一久氏。「人間の命の尊厳が損なわれるという点で、原子力利用は核兵器と同じ」との立場を取る安斎育郎立命館大教授(放射線防護学)…。スタンスは八人それぞれだが、事故をきっかけに、安全性を高める取り組みが急務だという点は共通していた。

 原爆被害にこだわり続ける人も取材対象に選んだ。映像で核被害を告発してきた広島市出身の映画監督新藤兼人氏は「事故の背景には、被爆体験の風化がある」と指摘した。一方、被爆者でもある森氏は「臨界事故と原爆を一緒に論じるのはおおげさだ」と主張し た。

 原子力は必要だという元内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、危機管理の観点から「絶対的な安全はあり得ないという現実を直視すべきだ」と強調した。評論家の桜井淳氏は長年、原子力産業にかかわってきたにもかかわらず、「いかに原子力利用を安全に終息させるかが課題だ」と訴えた。臨界事故を機に、原子力文明からの脱却や脱原発を考えだした人は少なくない。

 ■安易な姿勢目立つ

 インタビューを通じて、あらためて確認させられたのは、非があるのはジェー・シー・オー(JCO)だけではないことだった。原子力利用の現場ではこれまで、国も事業者も、放射性物質の危険性に対して、安易な姿勢が目立っていた。それが、広島と長崎への原爆投下という、二十世紀最大級の悲劇を体験した唯一の被爆国の現実だった、と言わざるを得ない。

 「JCOは、違法作業を組織ぐるみで堂々とやってきた」と事故調査委員会の東邦夫委員長代理。そうした意図的な違法操業をチェックできなかった国の責任と安全審査の限界を、科学技術庁の斉藤鉄夫総括政務次官や原子力安全委員会の佐藤一男委員長も認めた。

 ■迫られる意識転換

 今後、私たちは原子力とどう向かい合うべきか。「専門家は、国民を守ってくれはしない。自分たちで判断しないと命や安全は守れない」と桜井氏が言うように、国民自らの意識転換も迫られている。安斎教授は「放射線の基礎知識をみんなが学ぶ必要がある」と強調した。原子力利用のメリットとリスクについて、国や事業者が情報を公開することも不可欠だろう。

 事故調査委の最終報告書は「安全確保には、相応の社会的コストがかかることを自覚する必要がある」とした。例えば、効率より安全を重視した事業者内での施設整備や人員配置などだ。佐藤委員長が力説したように、安全最優先の意識徹底を目指す「安全文化」の浸透も欠かせない。

 原子力とどうかかわっていくのか。簡単に結論を出せる問題ではないのは確かだ。しかし、原子力につきまとう危険性を冷静に見つめ直すことが、放射線による被害を再び繰り返さないための出発点になるだろう。

(第2部おわり)


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