2000・1・9
風評被害、産業を直撃
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特産の干し芋づくりに励む東海村の住民。臨界事故による
風評被害で、売れ行きの落ち込みが深刻だ
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誤った情報が拍車
昨年十二月二十一日、茨城県東海村に再び衝撃が走った。臨界事
故で大量の放射線を浴びたジェー・シー・オー(JCO)社員大内
久さん(35)が亡くなった。原子力事故では国内初の犠牲者だった。
「チェルノブイリのようにおっかない所というイメージが広がる
のが怖い。年末年始も売れ行きはさっぱりだった」。JCOから四
キロ離れた所に住む、干し芋生産者川崎冨美男(66)さんの口調は険
しい。
産地ラベルを外す
特産の干し芋づくりが本格化したのは、戦後間もなく。今は、隣
のひたちなか市と合わせて全国シェアの九割近くを占める。「事故
直後は返品が多く、十、十一月は前年比で七割近く売り上げが落ち
込んだ」。村内の干し芋問屋の照沼勝浩専務(37)は渋い表情だ。
干し芋だけではない。村のニンジン生産農家は市場側の要請で、
「東海産」の札を外さざるを得なくなった。JAひたちなか東海中
央支店の照沼豪支店長は「ブランドを大切に育ててきた農家の気持
ちを思うとやりきれない。四十年間、安心して原子力と共存してき
たのに…」と漏らす。
波紋は、商業などにも広がっている。国道沿いにある飲食店は、
客足がかなり遠のき、売り上げが半分になった例もあるという。
14億円の損賠請求
八百近い村内の農家や商工業者はJCOに十四億三千万円の損害
賠償を請求。昨年末に四億二千万円余りの仮払いを受けた。国内で
の核被害の大規模な補償例は、マグロ漁業者らが対象となった米国
の核実験によるビキニ被災(一九五四年)以来である。
今回、風評被害が広がった背景として、事故直後の情報伝達や報
道の混乱も無視できない。例えば、当初報道で使われた「放射能漏
れ」との表現。通常は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故のように
放射性物質が漏れた状態を指す。
今回、外部に大量に出たのは中性子線で、放射性物質漏れは微量
だった。茨城県や国は、農作物や土壌について、放射性物質による
汚染や中性子線被曝(ばく)の痕跡を検査。その結果、健康や環境
に影響を及ぼす恐れはないと、安全宣言した。
事故直後、現場の転換試験棟の屋根が壊れたと海外メディアが報
じ、科学技術庁は慌ててホームページに棟の全景写真を載せて打ち
消した。事故翌日、新体操大会出場のため大阪市に来ていたオース
トリアの選手とコーチ四人が、大会中にもかかわらず急きょ帰国す
る騒ぎもあった。
「村から離れるほど、実情とかけ離れ、誇張された情報が伝えら
れる傾向がある」とJAの照沼支店長。誤った情報の拡大や、増幅
ぶりに驚きを隠さない。広島で被爆して東海村に住む小泉宣さん
(77)も「放射線の怖さや事故内容が、きちんと理解されていないか
ら無責任な風評被害が起きてしまう」と指摘する。
「差別意識」を懸念
被ばく者に対する差別意識の芽生えを懸念する声も出ている。J
COの隣接地で働いていて被ばくした建設会社社員鈴木康史さん
(25)は「結婚相手を選ぶなら被ばくしていない人を、と差別される
ことはないのか。不安だ」と独身者の揺れる胸の内を明かす。
広島、長崎の被爆者も、誤った知識に基づく差別に苦しんだ。広
島被爆者団体連絡会議の近藤幸四郎事務局長(67)は、結婚する時、
義父から強く反対された、という。「東海村の人たちが、いわれな
き扱いを受けないよう、国は情報をきちんと公開すべきだ」。被爆
者が味わった差別を二度と繰り返してはならない、との指摘であ
る。
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