中国新聞社

(47)また会う日まで 込み上げる感謝の思い

2002/3/31

 ホスピスケアで有名な大阪の先生から、職場に電話があったという。えらい先生なので、「え?私に何かしら」と思っていたら、「僕の本の中で、がん体験したことなどを対談しませんか」とのお誘いだった。

 「お役に立てるなら、喜んで」。新幹線に飛び乗った。おしゃべりな私にとっては、うれしい限り。あっという間に対談は終わり、ホッとして雑談に入った。

 「先生、語ることも書くことも、癒やしになります。私、新聞にエッセーを連載しているんですが、たくさんの方がお便りを下さるんですよ。すごく力になりました」

 「本当にそうですね」

 いただいたお手紙の一部を紹介したい。「病と闘う仲間といると、知らないうちに励まされる。いい意味で開き直っている自分がいる」「末期がんと知らされて、夫と泣き暮らしていた。でも、心の中に生きたい、自分の努力で生きられるかもしれないという思いがわいてきた。不思議です」…。

 東京の出版社が、この連載を本にしてくれることになった。まだまだ書きたいことはたくさんある。これからつながっていく患者会のこと、ケアしている患者さんとの出会いで学んだこと…。「よーし」と気合いを入れる。

 まだ出来上がってもいないのに、「印税が入ったら、寄付したり、患者会の運営に回せるかなあ」と早速、電卓をカチャカチャはじいてみる。「棺おけに入れて持っていく物ができて、よかったじゃないか」。笑いを抑えながら言う夫に、「間違いなく入れてよ。頼んだわよ」と、私は真顔になる。

 「あれ、いつの間にか夫より早く逝(い)く話になっている」。目を閉じると、がんをきっかけに出会った人たちの顔が浮かぶ。もう、この世にいない人もいる。あの時、その時の思いが込み上げてくる。

 残してくださった言葉の数々は、私にとってかけがえのない贈り物だった。どれほど、支えられたことだろう。病気と闘っている皆さんや家族の方に、その一部でもお伝えできたら、と願いながら書きつづってきた。

 あすから四月。私も「がん患者二年生」になる。今この時を大切にしながら、生きていこう。また、お会いする日まで。

おわり

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