2001/7/29 クリスマスが終わって、年の瀬が近づいてくると、病棟は慌ただしくなる。 いつから帰ろうか、お正月を家で迎えようとする算段を、それぞれがし始める。薬袋の残薬を数えたり、なんとなく心が浮く。しかし、一時外泊しようにも、血液検査がよくなかったり、家の事情で帰れない人もいるのだ。あまり、ウキウキを前面には出されない。 病院でのお正月はなんとなく取り残された感じがしていやなものである。私は正月を家で過ごし、三日には抗がん剤を注射するために帰ってきた。 病棟はガランとしていて、いつもより静かだ。先生たちも交代で正月休みを取る。手術もないし、当番の先生がいるだけ。長い休みが続くと、患者は不安になる。 「お正月休みは当番の先生に頼んどる。いろいろ忙しいんじゃ」。年末年始の休みに入る前、見るからに多忙な様子の主治医から告げられた。 五十歳代前半の主治医は、手術も多いし、学会などにもよく出掛けている。「いつ休むのかな。結構ハードに動く先生だな」と思っていた。手術の日は、たいてい腰を少しかがめて歩いているのも、長時間立ち続けているせいだろう。 新しい年もまた、診てもらわないといけない。主治医の体が心配で、いたわるつもりが、口をついて出たのは「先生にもしものことがあったら、どうしょう。私は手術も控えとるし、次に診てもらう先生か、病院を教えておいてください」 「しまった」と思ったが、出た言葉はもう戻らない。一瞬、主治医はキョトンとしていた。今までそんなことを言った患者もいないのだろう。 「先生は忙しいし、疲れているようだから、過労死といったことも起こりかねない。そうなった時、患者はどうすればいいのか、困るではないか。そういう事態も想定して、次の手段を教えておいてほしい」と言うつもりだった。 これでは、いたわるどころか、神経を逆なでしてしまったと反省。でも、「主治医は元気で無事でいてほしい、そして、自分が完全に治るまで付き合ってほしい」のが、患者のキモチなのだ。 その後、ある患者さんが七夕の短冊に「どうぞ、病気が治るまで、先生が元気でありますように」と書いたと聞いて、「みんなそう思ってるんだなあ」と安心した。 |