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2000年4月25日
2 汚染除去
「スターメッツ社の汚染状況は深刻です」。マサチューセッツ州 職員で環境アナリストのスティーブン・ロバーソンさん(41)は、同 僚の現場調査官クリストファー・パイアットさん(39)と同社の見取 り図を前に顔を見合わせた。「問題は汚染除去作業に必要な経費を どこからひねり出すかなんですよ」 同州ウィルミントン市の州政府環境保護局北東支部ビルの一室。 二人は、コンコード町にあるスターメッツ社(旧核金属社)の放射 能汚染問題の担当者である。 ![]() 「一九九七年から九八年にかけて、劣化ウランなどのスラッジ (汚泥状の廃物)をため池から取り除いたのは一歩前進。しかし、 クランベリー湿地のスラッジや地下の汚染水、汚染土壌を取り除く には前回以上の金が必要でね…」。ロバーソンさんらは思案にくれ る。 州環境保護局の見積もりでは約一千万ドル(約十億七千万円)。地 下の汚染状況の広がり次第では、五倍に膨らむ可能性もあるとい う。 本来は汚染源のスターメッツ社が負担すべきなのだろうが、ここ 数年は軍との契約が少なく、経営不振が続く。従業員も百人足らず と最盛期の六分の一以下に減少した。州政府にもその資金はない。 前回のように陸軍に頼るか、連邦政府環境保護局が国内の最汚染地 区の除染を目的にプールしている「スーパーファンド」資金の適応 を受けるほかない。 しかし、地元の上下両院議員らの軍への働きかけにもかかわら ず、「軍の財布のひもは固い」とロバーソンさん。 一方で、スーパーファンド適応認定地となるには、コンコード住 民に抵抗があるとも。「町には歴史や文化への誇りがあり、高級住 宅地としてのイメージも定着している。認定でイメージが崩れ、不 動産価格も下がるというわけだよ」 ロバーソンさんらは、住民参加のタウン・ミーティングなどで州 の立場を説明してきた。基本は住民の選択を尊重しつつも、「除染 作業ができれば資金源は問わない」との姿勢である。 「汚染物質の放置ほど、危険なことはない。社の敷地外に広がる ようでは、町のイメージなんて言ってられないからね」と、パイア ットさんが言い添えた。 ![]() それにしても、なぜスターメッツ社の汚染がここまで放置された のか。 「核物質を扱っている以上、営業の許認可は原子力規制委員会 (NRC)が握っている。日々の活動への規制や監視も、NRCが 中心。が、実質的な規制はなく、八五年まではほとんど野放し状態 だった」 ロバーソンさんの説明を聞きながら、昨年九月に茨城県東海村の 核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)で起きた臨界事故の ことを思った。ずさんな作業実態を放置した科学技術庁の在り方 は、そのままNRCの規制の甘さと同じである。 州環境保護局が調査のため、スターメッツ社に初めて入ったのが 八五年。それも劣化ウランによる放射能汚染ではなく、工場内にあ る井戸水が化学溶液で汚染されていたためだった。本格的な放射能 汚染調査を始めたのは九一年に入ってからである。 地下水移動を警戒 今ではため池の周りの地下水の劣化ウラン含有量は、一リットル当たり 八万七千マイクログラムと、州の上水用基準(一リットル当たり二十八マイク ログラム)の約三千百倍。土壌は一キログラム当たり平均四百六十ミリグラム で、州のクリーンアップ基準(一キロ当たり二十ミリグラム)の二十三倍 にも達している。汚染地下水は、既にため池からアサベット川方向 の敷地境界に向かい、大きく移動していると見る。 「前回はスラッジを取り除くだけで要請から七、八年かかった。 だが、その余裕はもうない」。ロバーソンさんらの表情には、危機 感すら漂っていた。 |
![]() ![]() 「住民の健康を守るのがわれわれの務め」と話すクリストファー・パイアット さん(左)とスティーブン・ロバーソンさん(マサチューセッツ州ウィルミントン 市) |
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