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00/5/28 (下)
「全会一致」妥協も生む 被爆地軸に欠かせぬ連携
最終日の十九日深夜になっても、核拡散防止条約(NPT)再検 討会議は紛糾を続けた。核査察問題をめぐり、名指しで非難された イラクが米国と対立したためだ。全会一致が原則の会議は、一国で も反対すればすべての合意が水泡に帰す。時計の針が午前零時を指 す直前、バーリ議長が会議の「一時停止」を宣言した。 ■体制限界示す 「会議を破たんさせる思惑でイラク問題を持ち出した米国の高等戦 術ではないか」。会議場のロビーに陣取る非政府組織(NGO)の メンバーたちは、こうささやき合った。核廃絶を明確に約束する最 終文書にいったん合意したものの、核保有国にとって、ご破算にな っても痛くない。むしろ好都合だ。事実、保有国の中ではイラクに 近いロシアやフランスが仲介に動くそぶりもみせなかった。 結局、米国とイラクの直接交渉で妥協が成立。会議は二十日午後 七時前、やっと最終文書を採択して閉幕した。公式記録上は十九日 午後十一時五十九分。「時計」は十九時間近く止まったままだっ た。 土壇場の混乱は、再検討会議とNPT体制そのものの可能性と限 界を如実に示す。百八十七カ国もが加盟する条約であり、一致結束 すれば、今回のように核兵器への決別という総意を示すことはでき る。それをつぶそうという国があれば、非難が集中するのも明ら か。だが、批判を覚悟する国が一つでも現れたら、何も決まらない のだ。 ■骨抜き個所も 実際、核軍縮の将来課題として最終文書に盛り込まれた十三項目 には、保有国の抵抗で骨抜きにされ、妥協の産物となった個所がい くつかある。 兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約は、当初の「二〇 〇五年までの交渉終結」のくだりが「五年以内」に変わり、さらに 「ジュネーブ軍縮会議(CD)で作業計画に合意してから」との前 提付きとも読める内容。中国はCDで、宇宙の軍拡問題などと絡め て審議するよう主張し、米国などと対立している。しかも、CDも 全会一致でなければ何も進まない。 ロシアが抵抗する戦術核の削減は「自発的な意思で」と前提が加 わった。つまり二国間や多国間の削減交渉を奨励する内容ではな く、あくまでロシアなどその国の意思にゆだねられる。全加盟国に 核軍縮努力の実績を報告するよう求める項目も、当初案の「年次報 告」が「定期的な報告」へトーンダウンした。 交渉過程で削除された軍縮課題も多い。核兵器の警戒態勢解除、 次回再検討会議が開かれる二〇〇五年までの核軍縮の加速などのく だりだ。広島、長崎の被爆地が実現を願い、会議で非同盟諸国が主張した「期限を切った核兵器廃絶」は、非現実的とみる保有国の冷 たい反応を浴び、議論にすらならなかった。 ■第一の扉開く 昨夏、十七項目の勧告をまとめた「核不拡散・核軍縮に関する東 京フォーラム」の報告書と比較しても、欠落テーマが目立つ。NP Tを強化するための協議委員会や常設事務局の設置、米ロ戦略核の 千発までの削減という数値目標などだ。 二年前に核実験を強行したインドやパキスタン、核保有が確実視 されるイスラエルはもともとNPTに加盟していない。「非核兵器 国としての早期加盟」を会議は求めた。しかし強制力はない。三カ 国に加盟意思はうかがえない。 だが、妥協や欠落が目立つとはいえ、「それでもなお」と今回の 会議に評価が相次ぐ。核開発競争に明け暮れた二十世紀の末に、核 保有国をも巻き込んだ合意が、「核兵器完全廃絶に向けた疑いのな い約束をする」という国際社会のあかしだったからだ。 被爆地を代表して再検討会議で演説した伊藤一長・長崎市長は 「核兵器廃絶への第一の扉が開かれた」と歓迎した。そして、被爆 地と非核保有国、NGOが連携し、誓約を実現するための行動を呼 びかけた。「第二の扉」は相当に重そうだが、核なき二十一世紀は その向こうにある。 |