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00/5/26
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保有国のもろさ


  
思惑違い米NMD先送り 弱体の露、均衡に固執 

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、核兵器の完全廃絶を誓 約して閉幕した。「核なき二十一世紀」への道筋を疑いなく進める には、今後、核保有国の誠実な努力が求められるのはむろん、非核 保有国や市民が結束して廃絶へのうねりを起こさなければならな い。会議で交わされた論議や舞台裏の動きを振り返りながら、新世 紀への課題を展望する。(江種則貴)

 ■目立たぬ動き

 四月二十四日、ニューヨークの国連本部。のどかな青空とは裏腹 に、再検討会議は開幕冒頭から、核超大国・米国への批判のあらし が吹き荒れた。

 「過去三十年間の軍縮努力のすべてを失う」とロシアのイワノフ 外相が非難すれば、中国代表も「新たな核軍拡競争の引き金にな る」と警告。非核保有国も相次いで同調した。

 導火線になったのは、米国が進める本土ミサイル防衛(NMD) 構想だ。敵のミサイルをはるか上空で撃ち落とす計画は、朝鮮民主 主義人民共和国(北朝鮮)が仮想敵国と米国がいくら抗弁しても、 ロシアや中国は核戦力の不均衡につながると懸念する。オルブライ ト米国務長官は「ロシアの核抑止力をそぐ意図はない」と強く反論 する。

 だが、会議で米国の動きや発言が目立ったのはこの時だけ。昨秋 の米上院による包括的核実験禁止条約(CTBT)批准否決など、 最近の核軍縮の停滞への批判も考慮した自重と、外交筋の見方は一 致する。

 ■前例ない声明

 五月一日、足並みの乱れを見せた保有国が一転、過去の再検討会 議では例のない「五カ国共同声明」を出す。NMD構想を推進すれ ば改定が必要になる弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を「戦 略的安定のかなめ」と位置付け、その「維持と強化」を明記した。 新アジェンダ連合など非核保有国陣営の団結に対抗する結束アピー ルだが、ABM条約改定に反対するロシアや中国は「維持」の言葉 を重視し、米国は「強化」を「改定」と読み換える玉虫色の結束で もある。

 こうしてNMD問題は会議の表舞台から消えた。英国の市民運動 家レベッカ・ジョンソン女史の言葉を借りれば「じゅうたんの下に 隠れた」。掃き出せば会議は「ほこりまみれになる」という事態 に、非保有国も触れるのを避けた。無用な混乱は避けたいとの同時 に、保有国の結束の乱れを突く最後の切り札としてしまいこんだか らだ。

 ■孤立する中国

 一連の動きは、核保有国陣営の構造変化を象徴している。東西冷 戦時代、核軍縮を進めるほぼ唯一の手法は米ソの直接交渉だけ。両 国は他国の関与を許さなかった。それが今では、NMD問題を国際 会議の場に持ち出すこと自体、ロシアの弱体化を物語る。

 実際、ロシアが会議で抵抗したのは戦術核の削減であり、核軍縮 でこだわったのは「戦略的安定」の言葉だった。経済悪化のため戦 略核の維持は困難となり、より小型の戦術核に依存せざるを得な い。その戦略核を減らすにしても米国とのバランスはあくまで確保 したい―。そんなロシアの国内事情を投影する。

 核軍拡に走る中国は、実態の公表につながる「透明性の増大」に 反対した。政府高官が米紙のインタビューを受け、NMDに強く反 発してみせるなど、したたかな交渉戦術を発揮したが、中国の軍拡 志向は他の保有国からも孤立した。

 「一強四弱」の思惑の違いを非保有国側は逆手に取り、交渉をリ ードした。核兵器完全廃絶を誓約する最終合意が、その最大の結実 だった。が、早くも保有国の言い訳が始まる。次期米大統領選の共 和党候補、ブッシュ・テキサス州知事は「米国の安全を脅かす水準 まで核兵器を削減することはない」。フーン英国防相は「具体的な 廃絶の時刻表ができたわけではない」。

 核廃絶の誓約という「歴史的合意」(アナン国連事務総長)が単 なる口約束で終わるのか。非保有国にとってはこれからが、保有国 に誓約を迫る正念場となる。

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