特   集 中国地方の自衛隊トップに聞く
2000.7.15
 

量を質で補う新体制に

陸上自衛隊第13旅団長
小野寺平正氏(56)
小野寺
おのでら・ひらまさ 陸将補。秋田県出身。防衛大卒。北部方面 総監部(札幌)人事部長、陸上幕僚監部総務課長、同調査部長など を経て昨年3月から現職。
 ―陸上自衛隊の役割は、具体的にどのように変わってきているの ですか。

 国土防衛の基本は変わらないが、阪神大震災を教訓に、災害への即 応性が高まった。また、周辺事態法への対応も必要だ。国際平和協 力業務も任務となっているが、海外の経験を通じ、隊員の視野も広 がっている。

 ―新ガイドラインについて、どう考えますか。

 法律はできたが、日米の調整メカニズムなどは作業が進んで おらず、まだ実感はない。ただ、わが国の安全保障が防衛力の整備 から、地域と一体化した運用の段階に入ったとは考えている。

 ―第一三旅団は昨年三月、師団から改組され、人員が大幅に減りま した。

 わが旅団は、陸自全体の改革の第一号だ。師団時代は装備 の更新も遅れ、部隊の充足率も低かった。それが人員は減ったもの の、車両などの新しい装備が一気に入った。組織も一からつくり直 し、量を質で補う「戦略機動旅団」として全体の力は以前と変わらな い。

 ―日本原駐屯地(岡山県勝田郡奈義町)などでは、隊員減が地域 経済に影響しています。

 日本原、海田、米子、出雲…。それぞれ隊員が減り、購買力低下 や生徒数の減少につながったが、特効薬はない。国家施策であり、 ご理解いただきたい。しかし災害派遣の即応性は維持する。迷惑は かけない。

 ―地域社会や自治体との関係をどう考えますか。

 自衛隊は国民の財産。地域とともに歩むのがわれわれの務めだ。 中でも防災を通じ、自治体とのきずなを強めたい。災害派遣の指揮 所演習(図上訓練)のノウハウもどんどん提供したい。神奈川県 は、防災担当課長として陸自OBを採用した。中国地方でも危機管 理の専門家として自衛隊OBの人材を活用してほしい。

 ―陸自は千葉県の第一空てい団の不祥事で、国民の信頼を損なっ たのでは。

 あまりにも残念だ。信頼回復には行動で示すしかない。私も部隊 を回って綱紀粛正を呼び掛けた。特に幹部は、自衛隊のあるべき姿 を原点に返って考えたい。

 ―今年一月、米陸軍との共同指揮所演習に初めて参加しました。

 米軍は作戦において情報収集能力が極めて高く、意思決定が早 い。現代戦ではスピードが要求されるが、陸自は相当、遅れてい る。学ぶべき点は多かった。

 
後方支援は大きな任務

海上自衛隊呉地方総監
谷 勝治氏(56)
谷
たに・かつじ 海将。京都府出身。防衛大卒。護衛艦「まきぐ も」艦長、第4護衛隊群(呉)司令、海上幕僚副長などを経て今年 3月から現職。
 ―PKOなどの国際貢献、新ガイドラインによる米軍協力や在外 邦人輸送と、海上自衛隊の任務が広がっています。

 東西冷戦が終わり、安全保障の在り方が変わってきた。かつて は、有事と平時の違いがはっきりしていたが、最近は、区分けが難 しい。いわば「グレー」の部分が増えてきた。自衛隊の役割が広が るのも、当然のことだ。われわれの任務は、以前から国際情勢の動 きに直結してきた。

 ―「周辺事態」が起きた場合に米軍へ協力することをどう考えま すか。

 国会の場で議論され、法律化された問題だ。政治が決めて任務と なったことについて、自衛隊としてやりたいとか、やりたくないと かいう問題ではない。逆に、われわれは現場の判断で飛び出すこと は決してない。政治が自信を持って、シビリアンコントロールを きちんと効かせてほしい。

 ―呉基地はどういう役割を果たすのですか。

 呉はもともと、後方支援業務の比重が高かった。四国沖の訓練海 面にも近い。舞鶴や佐世保基地と違い、「おおすみ」など、特殊な 船がいるのも特徴だ。海外に出るのはこうした船が多く、後方支援 は大きな任務だ。かつてのペルシャ湾掃海部隊やカンボジアPK O、昨年のトルコ派遣部隊は呉基地から出ている。

 ―大型艦船が増える割に、呉基地の施設は手狭になっており、呉 市も、港湾計画の見直しの中で、自衛隊桟橋の延長を検討していま す。

 例えば「おおすみ」は大きすぎて六隻分のスペースを取るため、 なかなか桟橋に泊められない。港湾計画の中で、議論してもらうこ とになったが、自衛隊の考えを一方的に出すだけではいけない。呉 港の他の機能とバランスをとりながら進めていくしかない。防衛予 算の制約もあるが、今のままでいいとは思わない。

 ―昨年の不審船事件を受け、江田島に「特別警備隊」が来年春に 設置されます。しかし、朝鮮半島では南北会談以後、雪解けムード も高まっています。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の動きを意 識した部隊は、現時点で必要なのですか。

 決して北朝鮮だけを対象にしたものではない。有事であれ平時で あれ、不審船に対応できる機能を自衛隊が持っておくのは大切だ。 韓国と北朝鮮が和解すれば、いらなくなるわけではない。



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