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2000.3.29 |
呉市と岩国市。ともに中国地方で米軍や自衛隊の基地を抱え、安全保障とは密接なかかわりを持ってきた自治体だ。二人の市長に、周辺事態法九条への対応も含め、「安保」への向き合い方を聞いた。 |
就任して近く一年になるが、昨年七月と今年二月、岩国基地の夜間着艦訓練(NLP)を二度にわたって体験し、滑走路近くで騒音を実際に聞いた。敏速な対応を求められる大変な事態だと分かった。国への申し入れも、これほどたびたびあるとは思っていなかった。基地問題が行政に大きなウエートを占めていることを、この問題を通じあらためて実感した。 ―日米安保体制や基地の現状については、どういう認識ですか。 国の防衛政策として、安保条約で置かれる基地の重要性は、地方自治体の長としても認めざるを得ない。そのうえで市民生活との調和を図る必要がある。基地では千人もの雇用もあるし、経済的に依存する部分もある。地元からの生鮮食料品の納入も求めているし、市教委の英語教育への協力もお願いしている。しかし、生活に影響を及ぼす場合は国や米軍に要請し、抗議しなければならない。その典型がNLPの問題だ。硫黄島に訓練場所があるのに、わざわざ本土で訓練をする必要はないのは明らかだ。 ―市民の声が米軍にきちんと届くのでしょうか。 もどかしさはある。もちろん、自治体としては国を通じて交渉するルールは変わらないが、NLPのような問題については、在日米軍の幹部に直接、実情や市民の感情を伝えたい、という気持ちはある。岩国基地の司令官は訓練の内容についての権限はないからだ。外務省や防衛施設庁とも話し、可能かどうか検討していきたい。 ―基地を抱える岩国市には、周辺事態の際には協力要請が予想されます。 岩国基地には米軍に加えて海上自衛隊もある。基地自体が周辺事態に関与することもありうる。それだけに、他の自治体とは違った協力を求められる可能性はある。市としては法律に基づき基本的には協力する立場だが、市民生活にも配慮してバランスを取る必要がある。だが、平時とは異なったさまざまな事態が生じる可能性がある。自治体だけで、勝手に想定して議論はできない。今のところ、周辺事態法への特別な対応は考えていない。 ―周辺事態法九条をめぐる国の姿勢があいまいだ、との指摘があります。 「こういう場合にこういう協力をやってほしい」とか、具体的なものを示してほしい、との気持ちはある。だが、国としてもどこまで具体的な内容を出してくるかはよく分からない。 |
海上自衛隊とは「共存共栄」が長年の市是。協力関係の中で、言うべきことは言っていく。また、日米安保体制は必要だとは思うが、弾薬庫には危険もある。市議会も返還決議をしており、すぐ実現する話ではないが、情勢の変化があれば返還してもらえばありがたい、という気持ちはある。 ―周辺事態での協力要請には応じますか。 決められた手続きによるものなら協力するのは基本だ。ただ、要請に応じるか、応じないかの二者択一ではなく、「十の要求に対して五までなら」とか「今は無理でも一、二週間後なら」などの対応も考えられる。場合によっては応じないこともありうる。 ―具体的にどんな協力要請が考えられますか。 市が港湾管理権を持つため、まず港湾使用は求められるだろう。だが、港を使っている一般の船との兼ね合いがある。乗員の休養など、急を要さないのなら待ってもらったり、他に回ってもらったりすることもあるだろう。ケース・バイ・ケースだ。国からの要請の具体的なルートや、呉港が満杯で周辺町の港に回った場合の広域的な調整をどうするかなど、分からない点はまだ多い。 ―呉市は、米軍の弾薬輸送の情報を事前に公表していますが、政府は「周辺事態で自治体に情報の非公開を求めることもある」としています。非公開の要請があったら、どうしますか。 周辺事態の際に具体的にどうするのかは検討していない。これもケース・バイ・ケースで考えたい。 ―国が専権事項とする安保・防衛に対し、自治体はどういう姿勢で望むべきだと考えますか。 外交や防衛は基本的には国がやるべきこと。しかし、住民に身近な行政を担当する自治体は、自分たちに影響が及ぶ場合なら、国の考えを納得できるまでとことん聞くことならできる。 ―その意味でも、国の情報公開は欠かせません。 軍事に関しては難しい問題もあるが、市民や市議会に情報を出さない、というのでは困る。いざという時に、まったく状況が分からないとかえって不安を招き、不測の事態も拡大しかねない。万一、危険なことがあるなら、情報を出して住民の接触を避けてもらうことも必要になる。例えば、何かわからないうちに大量の車が通り出し、自衛隊で交通規制をする―といったことがあったら困る。 |